イオンの上期業績(3-8月)は前半、コロナ禍で苦戦を強いられたものの、第2四半期の6月以降は増収に転じ、各段階利益の減益額は大幅に縮小して営業利益と経常利益は黒字となった。
7日、決算発表した吉田昭夫社長は「営業利益ベースで第1四半期はマイナス125億円と報告したが、第2四半期はプラス464億円と大きく改善した。ディベロッパー事業をSM(スーパー)事業が補完して、一業態でやるよりも安定した成績が残せた」と振り返る。
内食需要や感染防止(防疫)対策へのニーズの拡大を受けて急ピッチで変革に取り組んだことで、SM事業とヘルス&ウェルネス事業は大幅な増収増益となった。
このスピーディーな変革について吉田社長は「現場で判断させることが肝だと思っている。もう一つはトップマネージメントが腹をくくってきちんと指示を出すこと。現場でできることとできないことはあるかもしれないが、ベストと思ったことをはっきり言うべきで、その結果、うまくいかない場合は検証すればいい」と説明する。
その好例として上期のマスクの展開を挙げる。イオンリテールは、最大約400種類のマスクを品揃えするなどしてマスクだけで100億円規模の売上げを記録。「こういった成功体験をすると、現場は『行動すればお客さまが反応してくださる』という仕事の楽しさを感じ始める。トップマネージメントがきちんと指示を出し、現場がアジャイル(俊敏)型で取り組むといった企業風土をつくっていくことが重要だと考えている。イオンリテールも機動力が出てきた」と語る。
下期、吉田社長の関心はSM事業の好調がどこまで続くかにある。「特需のトレンドがあったので落ちるとは思うが、バスケットサイズ(購入金額)の膨らんだお客さまが同じような買い物をどこまで続けてくださるかがポイントになる。下げ止まりの部分を低く抑えられれば、ディベロッパー事業と総合金融事業が回復したときによいカタチにもっていける」と述べる。
上期に苦戦したディベロッパー事業も、直近では好転の兆しが見え始めたという。イオンモールの中国事業は、10月1日からの大型連休・国慶節を追い風に前年を上回る客数を記録。「海外旅行に行けず中国国内にいるというのも一因かもしれないが、日本のモールにも同じような傾向が出てくるのではないかとポジティブな検証としてとらえている」。
今後もデジタルを中心に変革のスピードを早めていく。「コロナ禍で生活習慣が変わったとの見方もあるが、一番思うことは今まで変わるであろうと言われたことが早く変わるということで、変革のスピードが企業に求められる。ソサエティ5・0の提唱やデジタル庁新設の動きもあり、デジタルを前提としたルールが企業活動の要になる」とみている。
デジタル化・非接触化の取り組みとしては、イオンリテールが6月にネットスーパー本部を新設し、展開店舗数とピックアップ拠点の拡大に取り組んでいる。「店舗レベルではネットスーパーで黒字になっている店舗が複数出てきた。お客さまの数をある程度までもっていくと、分岐点を超えることも分かった。ピックアップのやり方を含めて、バスケットサイズを大きくしていけば事業になる感じはしている」と期待を寄せる。
イオンは23年に、Ocado社のソリューションを活用して最先端のAIとロボティクス機能を導入した大型自動倉庫・顧客フルフィルメントセンター(CFC)の建設とネットスーパー事業の本格稼働を目指している。
なお、今後の経営環境については「コロナ禍の直接的な影響が去っても、行動や意識や価値観については部分的には継続・定着する。マクロ経済へのインパクトも、マイナスインパクトが続くと考えている」との見方を示す。