アサリや海苔の不作を課題に持つ愛知県で、漁場の回復に向けた議論が続けられている。
9月13日、愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会が主催する「きれいで豊かな伊勢湾シンポジウム~長良川/木曽三川と海の汽水域の恵みを受ける愛知県の海苔~」が名古屋市で開かれた。
同委員会は、専門的な見地から知見の集約や普及啓発に取り組む2012年設置の有識者委員会。シンポジウムの第1部は3つの講演を行った。

第一講演は、愛知県農業水産局水産課の日比野学課長補佐が「豊かな海の恩恵を受けて営まれる『愛知県の漁業』―ノリとアサリを中心に―」をテーマに話した。
愛知県の水産業は、全体では全国22位(24年)の生産量だが、個別では全国上位の魚種も多く、多様な漁業が営まれている。
長良川が流れ込む伊勢湾は三河湾とともに陸に囲まれた内湾で、栄養塩(窒素・リン)が留まりやすい。窒素・リンはかつて水質悪化の要因とされていたが、生き物の生育に必要な栄養分であることが分かってきた。
14年以降、20年にわたり全国1位を誇ったアサリの生産量が急減した。海域の栄養塩が不足して植物プランクトンが減り、餌不足に陥ったらしいと分かった。海苔の終漁時期も栄養塩の多寡が左右する。生産量を維持するために、栄養塩の確保が重要さを増している。
県では、環境施策の見直しを求める県漁連の要望を受け、22年に愛知県栄養塩管理検討会議を設置した。環境・水産・下水道の部局などが構成員となり、25年に「きれいで豊かな海」の実現を目指す報告書を発表。栄養塩管理の3つの柱――「社会実験等の継続」「栄養塩増加運転の恒常的実施と枠組みづくり」「栄養塩を漁業生産につなげるための取組」を提示した。
その影響もあってか、環境省では「総量削減」から「総量管理」へ、約半世紀続いた制度が大きく転換しようとしている。
日比野氏は「海の栄養塩を増やす道のりは、これからが実装の段階。水産業は社会経済の基盤だ。地域でかかわる人々と生き物の双方が豊かになるのが『豊かな海』ではないか」と語った。

第二講演は「海苔の流通動向」。永井海苔の久田和彦社長が登壇した。
伊勢湾、三河湾は栄養塩が豊富で魚種が多く、おいしい海苔や海産物がたくさん取れる海だった。しかし厳しい総量規制で痩せた海に変わった。
海苔は温暖化で種付けが遅れ、20年前と比べると生産期間は半月以上も短い。海水温が低く質・量ともに良い1~2月上旬でも、栄養塩が不足して色落ちすることが当たり前になった。生産環境の不安定さは生産者の廃業を加速させ、県産海苔を仕入れる販売業者の衰退を招いている。
一方、同じく厳しく規制されていた兵庫県は、瀬戸内特別措置法に基づく県独自の栄養塩等管理運営計画を運用し、乾海苔の出荷枚数は24年度に過去最高を達成した。
14年までは国内消費の全量を国産海苔で賄えていたが、現在は約60%にとどまる。久田社長は「国産100%は取り戻せる。そのための支援をしたい」と話した。

第三講演は、ウミト・プラスの納谷沙織社長による「海苔ができるまで 鬼崎漁協の漁師さんに聞いた、現場のリアル」。
愛知県では過去十数年の間に海苔の漁業経営体数と生産枚数が4割以上減少している。海苔養殖には多額の資金が必要で、一人前になるまで時間がかかり、参入の壁が高い。
そうした中、鴨やクロダイの食害が深刻で、鬼崎漁協では年に数千万円~1億円規模の被害が発生している。ウミト・プラスはAIカメラやドローンを使った食害対策に取り組んでおり、納谷社長は「現場の悩みに寄り添いたい」と述べた。
シンポジウム第2部は「講演者とフロアによるディスカッション」で、講演者3人のほか、愛知県漁連の漁師、海苔商社らも発言。「総量管理」への転換を「遅い」と批判する意見も出たが、日比野氏は2027年に反映が見込まれるとし、「それまでは歯を食いしばり、制度を前に進めるため皆が連携するフェーズ」と呼びかけた。
