1909年の開園以来、ぶどう栽培とワイン造りを手がけてきたサントリー登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市)。8月末には新たな醸造棟が竣工し、このほどメディアに公開された。見学ツアーもリニューアル。独特のテロワールを生かしたものづくりとともに、日本ワインブランド「SUNTORY FROM FARM」の魅力を発信する。
「サントリーにとってワインは祖業。ものづくりに日本らしい感性を反映させ、日本料理との相性を訴求。世界に日本の文化として提案し、新たなジャパニーズワイン文化を創造する。長きにわたり受け継がれ、つむがれた物語が世界に花開く過程を、お客様にしっかりお伝えしたい」。
同社日本ワイン部長の宮下弘至氏が語った。
約7億円の設備投資を行い1年間かけて建設した「FROM FARM醸造棟」は、今月から本格稼働。大きな特徴は、ぶどうの個性を最大限に生かした多彩な原酒のつくり分けを可能とした点だ。

同ワイナリーでは、複雑な地形から生まれる土壌の特徴を生かすために、畑を約50区画に分割。品種により異なる個性を持つぶどうを、それぞれの区画に最適な手法で育てている。
今回の新醸造棟には、繊細な温度調整を可能にする26台の小容量サーマルタンクを設置。それぞれの区画から最適なタイミングで収穫したぶどうを、小ロットで丁寧に仕込めるようになった。
「新醸造棟では、これまで以上に『ジェントルハンドリング』を実現する各種設備を導入した。ぶどうとワインをていねいに扱う、サントリーのワインづくりの思想に基づく取り組みだ」。
そう説明するのは、同ワイナリーのチーフワインメーカーを務める篠田健太郎氏。
「ぶどうに余分な負荷をかけず、それぞれのぶどうに合わせた最適な仕込みを行うとともに、さらに酸素との接触を低減した瓶詰め工程でより高品質なワインづくりが可能になった」。
圧搾のための新プレス機もその一環。新導入の「PAI」と呼ばれる機器は、均質な圧力で素早くプレス。果皮を自重でほぐし、搾汁後はすぐに冷却することで、酸化を防いだクリーンな果汁が得られる。
またぶどうの搬送にも新システムを導入。ポンプを使わず重力による搬送を行う「グラヴィティ・フロー」で、ぶどうへの物理的負荷を軽減している。

見学ツアーも刷新
新たな見学ツアーは19日からスタート。ワイナリーの豊かな自然を感じながら、つくり手の技、ものづくりにかける情熱と挑戦を体感できる。
参加費8千円の〈プレミアム〉ツアーでは、広大な敷地内をバスで移動しながら、眺望台からの景色やぶどう畑を視察。新たな醸造棟や熟成庫で、実際の仕込工程の現場を間近で体感。見学後は4種のワインを楽しめる。
「これまでしっかりワインづくりをご紹介できなかったが、自園で育てたぶどうが匠の技で仕込まれ、時がワインを熟成させる過程が体感できるようになった」(宮下氏)。