テレビの仕事をしていた頃、収録スタジオでいつもは鳴らない電話が「ジリリリーン」と珍しく音を立てていたので受話器をとると、声の主はミスター長嶋茂雄その人だった。お茶の間で聞き慣れていたのと寸分違わないのびやかな声色で名乗られ、持つ手が震えた。
▼オーラも感じられた。私が感じたのは選手や著名人が語るそれとは違い、スタジオ入りするミスターを待ち構える周囲の尋常ならざるざわつきから感じられるオーラだった。実際、垣間見ると、映像で想像していたよりも遥かに大きい体躯に驚かされた。
▼食品業界が見習うべきはお客様を第一に考えていた姿勢。魅せるために、歌舞伎の所作を取り入れた投法や、空振りのときにヘルメットが飛ぶように少し大きめのヘルメットをわざと被るといった逸話が人口に膾炙している。
▼最近知ったのは、監督時代、捨て試合の発想を持たなかったこと。一生に一度と満を持して球場へ足を運ぶ観客にも思いを馳せて負けほぼ確定の試合も、投手を次の試合に温存することはせず魅せるために投入したという。記録よりも記憶に残る男と言われる所以だ。
