UCC上島珈琲は4月、レギュラーコーヒー製造の主力工場「UCC富士工場」にて世界で初めて水素焙煎コーヒーの量産を開始しカーボンニュートラルを推進するとともに、おいしさも向上させる。
4月23日、富士工場で発表会に臨んだUCCジャパンの上島昌佐郎社長は「水素焙煎コーヒーはおいしく、しかも環境にいい。カーボンニュートラルに貢献する水素エネルギーを活用し、おいしさという食における本質的な付加価値を生み出すことができたのは、世界のコーヒー産業・食品産業でも珍しくユニークな事例だと自負している」と語る。

同社が掲げるサステナビリティビジョンの1つ「2040年までにカーボンニュートラルの実現」に向けては「水素焙煎はそのための大きな第一歩」と力を込める。
水素焙煎コーヒーとは、コーヒーを焙煎する際の熱源に、一般的なガスではなく水素を使用したコーヒーのこと。バーナーで水素を燃やして発生した熱風を焙煎釜に送ることで焙煎する。
使用する水素は、官民・他業界の垣根を越えた連携とNEDOの採択を受けて開発されたP2Gシステムを使う。
再生エネルギーをベースとした電気で水の電気分解を行ってつくられる「グリーン水素」であるため、実質的にCO2フリーの熱源となる。
環境への配慮だけでなく、味わいにおいても優位性がある。水素は最小燃焼単位が小さいため、ガスでは出せない極弱火を出したり、ガスでは難しい緩やかな温度変化をつけたりが可能となっている。
このことから、例えば“甘みを引き出させる温度帯”や“雑味を低減する温度帯”といった特定の温度帯で、長く焙煎することができ、豆の特性に応じてポテンシャルをより引き出すことを可能とする。

量産には、同社の富士工場に導入された大型水素焙煎機「HydroMaster(ハイドロマスター)」を活用。
「ハイドロマスター」は水素・都市ガスの両方の熱源に対応し、水素と都市ガスの混合での使用も可能とする。
フル稼働させた場合、年間6000tの豆を焙煎することができる。
これは、コーヒー1杯当たりに使用するコーヒー豆量が12gだとすると5億杯分に相当し、複数の大手チェーン店の需要をカバーできる量だという。
量産化に伴い、4月23日には、水素のみを熱源とし焙煎した水素焙煎コーヒー7製品を新発売した。

業務用のコーヒー豆とワンドリップ製品は定番品として、家庭用のコーヒー豆と飲料は数量限定品として展開する。
コーヒーという消費者にとって身近な製品の発売によって、水素への理解が深まることも期待される。
「水素で焙煎したコーヒーを通じて、一般の消費者の方に水素エネルギーを身近なものだと感じていただいて、少しでも水素エネルギーの普及に貢献したい」との考えを明らかにする。
今後の水素焙煎コーヒーの課題には、焙煎や水素への理解、水素社会の達成に向けた連携、味わいのさらなる進化の3点を挙げる。

UCCジャパンの里見陵執行役員サステナビリティ経営推進本部長は「コーヒー豆の焙煎がどういうものかイメージできない方や、水素というものがよくわからないという方も多い。丁寧なコミュニケーションで飲用を促し、水素のイメージや水素焙煎のイメージをつかんでいただきたい」と説明する。
水素社会の達成に向けて、水素に注目している企業や地方自治体などと連携した活動を行い、水素そのものの認知や理解の拡大にも努める。
“コーヒー屋”として、水素焙煎による味作りの研究もさらに進めていく。
「今も自信のある商品を作れているが、もっと味わいをわかりやすく際立たせていきたい。水素焙煎だと明らかにおいしい、と言っていただければ、普及に弾みがかかると考えている」と意欲をのぞかせる。

UCC上島珈琲の伊藤佳世DTC事業本部本部長も「お客様に価値をお伝えするときに、コーヒーのおいしさと環境への良さをセットでお伝えする。お客様が実感しやすい価値はおいしさのため、水素焙煎コーヒーだからこそできる味わいの体験を広げていく」と力を込める。
将来的には海外展開を視野に入れる。実際に、今年1月にカリフォルニアで開催された「Hydrogen&Fuel Cell SEMINAR」では、アメリカを中心に海外の関係者から高い関心を集めたという。
「まずは国内で販売をスタートさせたが、海外からの引き合いも出てきている。水素焙煎に対するお客様のニーズや理解は、日本より高いところもある。まずは輸出ベースになるが、ニーズには対応していきたい」と里見本部長は語る。
海外での水素焙煎の可能性にも触れる。
「焙煎豆は鮮度の問題もあり、海を渡ることは少ない商品。最終的には、消費国で水素焙煎をするのが一番の理想形となる」との青写真を描く。

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