「大衆とは、他の人々と同一であると感ずることに喜びを見出しているすべての人のことである/彼らは自分と違う考えの人を排除する。自由で自立した思考をしようとする者を嘲り、引きずりおろす」(オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』)。大衆社会の到来とともに、全体主義や共産主義が台頭する20世紀初頭の欧州。スペインの哲学者は危機感を抱いた。
▼人権、多様性、環境保護、国際協調、自由貿易といった欧米が主唱してきたリベラルな価値観が、米トランプ政権のもとで急速に揺らぐ。ウクライナ、ガザでの紛争も、侵略者側にとって願ってもない大成功の結末で強引に幕引きが図られそうだ。
▼メキシコ湾の名称を一方的に変更し、隣国カナダの大統領を自国の「州知事」呼ばわり。挙句にグリーンランドをよこせと公言する、現代アメリカの大統領。2度の大戦を経て築かれた国際ルールが反故にされ、世界は19世紀以前の帝国主義時代に回帰し始めたかにみえる。
▼米国だけではない。ナチスの記憶を継承してきたはずのドイツでも、極右政党が躍進した。「大衆社会2.0」に突入したSNS全盛の世界を、オルテガはどう見るのか。ただ米政権への熱狂には早くも陰りがみられ、強引な手法への不信感も高まる。大衆が真に「反逆」すべき相手を、もう一度しかと見定めるべき時だ。
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