八海醸造「八海山」 ブルックリン・クラと提携を深める真意とは 日本酒の正しい情報を“現地の言葉”で発信

八海醸造グループが業務資本提携する米国・ニューヨークの「Brooklyn Kura(ブルックリン・クラ)」では、現地で新設・拡張工事を行っていた新蔵が24年1月にも本格稼働する見通しとなった。年間の生産能力は最大900kl(約5千石)。

両者は長期的な視点で「日本酒を世界飲料に」との志を共有するが、これから八海醸造が米国で注力したい事の一つが「日本酒の正しい情報を“現地の言葉”で丁寧に発信していく」(八海山の林保光執行役員第二営業部部長)ことだ。「日本酒は海外でまだまだマイナーな存在。ビールやワインの様にもっと日常で親しんでもらうためには、より良い製品造りはもちろんのこと、本質的な価値や情報が“現地の言葉”で浸透していくことが重要」との想いが強い。

新生ブルックリン・クラ、1月本格稼働へ

ブルックリン・クラの外観 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ブルックリン・クラの外観

八海山は国内において、日本酒や発酵食品をテーマにしたセミナーを積極的に行ってきた。コロナ禍で縮小を余儀なくされたが、かつてのピーク時は東京・大阪の両営業所トータルで年間数百回も実施。「目的は日本酒や発酵食品を身近に感じてもらうこと。座学だけでなく、料理や飲食を通じて実際に体験していただくのは大切な機会」(広報担当者)。

ブルックリン・クラとの提携でも積極的な情報発信を実践する考えだ。新蔵は製造所と隣接して約70名収容のタップルームを備え、さらに学びの場となる「Sake Study Center(サケ・スタディ・センター)」を設置。ここを舞台に「SAKEセミナー」を一般消費者および飲食店・小売店の従事者らに向けて行う。

講師は、第2回「酒サムライ」の叙任者で八海醸造グローバルブランドアンバサダーのティモシー・サリバン氏。アメリカ出身で日米双方の文化に精通しており、参加者のニーズにあったプログラムを提供する。

「新蔵は製造所とセミナールームが隣接している理想的な環境。まだ構想段階だが、将来的に本格的な酒造りを目指す人を育成するコースも用意できれば」(林執行役員)。

年産最大900kl、火入れ設備導入

「八海山 特別純米(輸出専用)」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「八海山 特別純米(輸出専用)」

ブルックリン・クラの新蔵は、年間の生産能力が従来比で約10倍の最大900kl(約5千石)となる。新たに火入れ設備を導入したこともポイント。これまで主力の生酒に加え、より品質の安定した製品を米国内に広く届けられるようになる。

現行の主要商品は「Blue Door Junmai(ブルードア 純米)」や「Number Fourteen Junmai Ginjo(ナンバー14 純米吟醸)」など。ニューヨークの地で、魚沼と同じ軟水を活かしたきれいな酒質を目指して醸されている。他にもSAKEになじみがないアメリカ人向けに、ホップなど副原料を使った飲みやすい限定品も提案する。

輸出は「雪室」熟成酒を核に

清酒「八海山」の輸出は1995年にアメリカ向けでスタート、徐々に拡大してきた。現在は北米を筆頭にアジアでの露出も増えており、26か国・地域に展開する。

主力は高付加価値品だ。とくに自社施設「八海山雪室」の専用タンクで貯蔵した「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」と「純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年」が中心的な役割を担う。

「熟成の価値は海外でもアピールしやすい。本来の淡麗さを残しながらなめらかで余韻のある酒質に仕上がっており、肉料理などとも相性が良い。新潟の雪を連想させる真っ白なボトルも特長。輸出の核となる商材に育てていく」(八海山の阿部俊一海外営業課課長)。

「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」(左)と「純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」(左)と「純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年」

なお「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」は昨年4月、男子プロゴルフの松山英樹選手が「マスターズ」のディフェンディングチャンピオンとして、大会前に行われる「チャンピオンズ ディナー」で提供酒に選んだことでも話題になった。

輸出専用で「八海山 特別純米」を展開。ブルーを基調にしたスタイリッシュなデザインは、米国在住のデザイナーが手がけた。バランスのとれたまろやかな味わいで幅広い料理にあわせやすい。

「純米大吟醸 八海山 金剛心 浩和蔵仕込」も海外で存在感がある。同社最高級の一品だが、個性的なボトルが注目を集め、アジアではギフトシーンの利用も多い。

23年8月期の輸出および免税販売はトータルで数量・金額とも前年クリアした。輸出は国・地域によって実績がバラついているが、免税販売はインバウンドの活性化でコロナ禍前の19年度を上回るなど好調だった。