パン粉業界の悲痛な叫び 原料以外のコスト転嫁へ

10月期の輸入小麦政府売渡価格の据え置きを受け、直近の小麦粉価格も維持されることとなった。この対応を歓迎する需要業界は少なくないが、パン粉業界は値上げの旗印を失ってしまった。

パン粉は食料インフレ下で最も値上げが遅れている加工食品の一つ。パン粉メーカーは、小麦粉の価格変動に応じた形で価格改定を実施してきた。22年はこれまでの小麦粉価格の上昇以外にも、副原料や包装資材なども軒並み高騰し、さらに電気やガスといったエネルギーコストが急騰している。パン粉製造はパンを焼成し、電気などを使い粉砕、乾燥させるなど工程が多く、冷蔵や冷却も必要となる。その分、動力費の上昇によるダメージは大きい。

厳格な衛生管理には費用もかかり、古くなった製造設備を更新しようにも導入価格がコロナ前の倍近くまで上昇している。工期も長期化することから、更新をためらう企業もあるという。さらにコロナ禍での中国企業のロックダウンにより生産ラインの部品が手配できず、この状況が続けば、いずれは保守すらままならなくなるという現場からの悲痛な声も聞こえてくる。

労働力確保の問題も大きい。業務用パン粉大手の富士パン粉工業の小澤幸市社長は「求人しても業界の門をたたく若者は少ない。現状は定年退職した方の再雇用か、外国人頼みだ。自動化したくても人件費をアップしたくても元手がない。働く人が増えなければ増産もできないが、時間外労働の上限規制や最低賃金のアップなどにも悩まされている」と苦しい胸の内を打ち明ける。

コスト高と人手不足によりパン粉メーカーは規模を問わず、各社が苦しい局面を迎えている。事業存続のためには価格転嫁が急務だが、パン粉はマスメディアで紹介されやすいメジャーな食品とは違い、顧客からの理解を得られにくいのが実のところだ。

苦境に立たされる中、一部のパン粉メーカーでは慣例化した小麦粉主体の価格改定を見直し、業務用、家庭用とも価格改定を顧客に要請し始めた。事業環境の悪化から、他社もこれに続くものと考えられる。

業界全体では、業務用が生パン粉15円前後/㎏、乾燥パン粉20円前後/㎏の値上げ(全国平均)が妥当との見方が強い。家庭用に関してはフライスターが乾燥パン粉で15円前後/㎏の値上げに動いた。

全国パン粉工業協同組合連合会の会長も務めるフライスターの關全男社長は「パン粉はコモディティーな食品だが、お客様にも少しずつ業界の窮状を理解していただけるようになったと感じる。しかしながら、業界を取り巻く環境は日に日に厳しさを増している。そのため小麦粉だけでなく、その他のコストを分別してパン粉価格に転嫁することにした。現状が続けば低収益で未来のない業界になってしまう」と理解を求めている。

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