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日本茶が転換点 茶価高騰の一方で一番茶に買い手がつかない事態に直面 「日本茶文化を守りたい」静岡の茶農家が語る現場の声

 日本茶が今、大きな転換点を迎えている。

 2025年は一番茶(荒茶)以降の茶葉が増加し、高値で取引されたことは報道などでも伝えられている。茶農家の経営には、全体として一定の下支えとなった。

 一方で、2024年には、経営の屋台骨となる一番茶(荒茶)に、買い手(茶問屋や商社など)がつかないという事態に直面していた。
 茶農家の多くは茶葉の売り先や価格といった出口への不安を抱えながら、後継者不足や肥料代・機械代などの生産コストの上昇といった、様々な課題と隣り合わせになっている。

 茶問屋や商社は近年、リーフ向けの一番茶より、主にペットボトル飲料の原料など用途の幅が広い二番茶以降の原料茶葉を買い求める傾向にある。

 この動きは生活者のライフスタイルの変化や、経済状況を反映した動きとみられる。主にリーフ向けに使われる一番茶は、急須離れの進行もあって需要が相対的に減り、結果として最終製品は手に取られにくいといった実情があるようだ。

 二番茶以降の引き合いが強まる中、「一番茶を作らなければ二番茶以降のお茶はできない」と口を揃えるのは、3月26日、取材に応じたJAハイナン流通販売部茶業センター副センター長の江川佳元さんと勝間田開拓茶農業協同組合副組合長の横山嗣人さん。

 一番茶は、茶農家経営を支える重要な柱でもある。
 「生葉(なまは)ベース、あるいは、一番茶の生葉を工場で加工した荒茶ベースでも、年間売上の6割から7割程度を占める。ここから年間の経費を捻出しているため、一番茶の取引が振るわないと、大打撃を受ける」と横山さんは訴える。

 横山さんは現在40歳。高校卒業後、農研機構で2年間学び、21歳の頃、Uターン就農した。勝間田開拓茶農業協同組合では、高齢化や後継者不足により組合員数が減少し、現在は18戸で約31ヘクタールの茶園を管理している。

 同組合は、お茶に特化した専門農協で、農薬・肥料・資材の調達先であるJAハイナンと連携しながら、荒茶の出荷などを行っている。JAハイナンは、静岡県・牧之原の農家からお茶を仕入れて出荷している。

これまでで最も厳しい局面 2024年には一番茶を刈り捨てる判断

 就農後、凍霜害、東日本大震災・原発事故による風評被害、コロナ禍での需要減といった大きな荒波を乗り越えてきた横山さんも、「今ほどは厳しくなかった」と述べる。

 摘採した生葉は、在庫として保管せず、その日のうちに工場で荒茶へと加工して翌朝には出荷する。その際、適正価格で売り切るのが望ましい流れとなる。

 中でも一番茶は時間との勝負となる。
 「静岡県の相場は取引のタイミングが価格に影響しやすく、後ろ倒しになるほど不利。少しでも高値で取引していただけるよう1日でも早く売り切りたい。例えば今日、1キロ2500円で売れるものが、明日になって同額で売れることはほとんどない。最低でも50円から100円、近年では200、300円下がることもある」と指摘する。

 こうした条件で、買い手が見つからない、あるいは適正価格で買われるか分からない状態になると「茶畑が摘採時期を迎えたとしても刈れない」事態に陥る。

 荒茶加工をして買い手が見つからない場合、在庫がどんどん膨らみ、これに伴い値崩れを起こし最終的には投げ売りせざるをえなくなる。

 「1反10アール(1000平米)の畑で平均すると600キロから700キロの生葉が摘採できる。20反の畑の場合、多くて15トン程度が摘採され、工場は24時間フル稼働で対応する。荒茶加工で重量は約5分の1に減り、生葉15トンで3トンの荒茶ができ上がる。ここ2、3年は、作ったけど思うように売れず、1キロ2500円を見込んでいたのが、蓋を開けてみると2100円というような状態が続いている」という。

 2024年(令和6年)産の一番茶では、適正価格で買い手がつかず刈り捨てを余儀なくされた。

 「自然災害が理由ではなく、需要が低く刈り捨てたというのは恐らく初めてのこと。1キロ500円くらいまで下がり、そこまで下がると採算割れになる。製茶すればするほど損失が大きくなることから、一番茶を刈り捨てるという、これまで経験したことのない判断を迫られた」と総括する。

 一番茶で買い手がつかなかったのは、品質の良し悪しではなく、需給バランスの変化や、茶問屋が二番茶以降で製品づくりを調整すべく一番茶の仕入れを抑えたことによるものとみている。

 「農家には収穫する喜びがある。手間暇かけて栽培して、摘採できるにもかかわらず、刈り捨てなければいけないというのは、お金にならないということ以上に、ショックが大きい」と訴える。

抹茶需要の高まりと、現場が抱える離農の課題

 2025年(令和7年)産の一番茶について横山さんは「茶問屋によって、買ってくれるところと、そうでないところがはっきり分かれた」と振り返る。買い手が限られる中、「結果としてなんとか売り切った」という。

 一方で、二番茶以降は、抹茶ブームなど複数の要因が絡み合い、荒茶価格が高騰。農家の収益面では一定の改善がみられたものの、その状況を手放しで喜べるわけではないという。

 「昨年はよかったが、茶問屋から『このあとも売れるかどうか分からない』と言われると、作る側としても不安になる。販売のプロにそう言われてしまうと、再び下落してしまうのではないかという懸念は拭えない」と吐露する。

 ハイナン管内では、一番茶・二番茶・秋冬番茶の3期で摘採するのが習わし。

 昨年は、一番茶、二番茶ともに生産量が減少した中、一番茶を買え控えられていた分の需要が二番茶以降に集中。加えて抹茶ブームにより、煎茶から抹茶の原料茶葉となる碾茶への転作が進んだことで、荒茶価格は高騰した。

 「二番茶は1キロ1200円前後で始まり最終的に800円まで落ちるのが一昨年までの傾向。昨年は1300円で始まり1200円で終わった。価格差がほぼなかったため、お茶屋さんからは二番茶で通常行われるような、価格帯の異なる茶葉を組み合わせることができず、1つの製品しか作れなかったと聞く。秋冬番茶については、昔から300円前後で推移し高い時も400円程度だったのが、昨年は平均1850円となり、今まで見たことのない金額に跳ね上がった」と説明する。

 高まる抹茶需要については、横山さんが実際に鹿児島を訪れて確認した。
 「200ヘクタール規模の農園の半分を碾茶に切り替えたことを知った。JAハイナン管内の茶園は現在1300ヘクタールあり、そのうちの100ヘクタールがなくなることがイメージでき、煎茶用の供給がタイトになることを実感できた」と語る。

 昨年の二番茶以降の高騰で茶農家の収益改善に光明が差すものの、一時的な側面も強く、将来への見通しが立ったとは言い切れない状況にある。収益改善を契機に離農する人も散見されるようになったという。

 「売上が仮に横ばいでも経費は増え続ける。例えば、100万円だった機械が今では500万円以上する場合もある。投資をしても回収できない恐れがあり、借金がなくなったタイミングで離農される方が多い。衝撃的だったのは、有名どころでブランド力もある専門農協が解散されたこと。『あの人が辞めたのなら、私も辞める』といった負の連鎖も起きている」と指摘する。

勝間田開拓茶農業協同組合の抜根した10アールの畑。新品種「しずゆたか」の苗木200本が定植される。
勝間田開拓茶農業協同組合の抜根した10アールの畑。新品種「しずゆたか」の苗木200本が定植される。

売り先の不安をどう減らすか 生産者とともに築く仕組み

 持続可能な茶農業を阻むのは、高齢化・後継者不足、資材や設備費の高騰に加えて、一番茶の売り先が不安定なことが挙げられる。

 「一番茶が売りにくかったというのが一番の課題。畑を増やしたところで、令和6年のように売りに苦労する状況では、経営面だけでなく精神的な負担も大きい」と横山さんは打ち明ける。

 その点、伊藤園が1976年から取り組んでいる「茶産地育成事業」は、茶農家にとって出口が見通せる取り組みとなる。
 「茶産地育成事業」では、各地の茶農家に伊藤園の求める茶葉を栽培してもらう「契約栽培」や、荒廃農地などを茶園の造園・維持・拡大に取り組む「新産地事業」があり、市町村や事業者と伊藤園が協働で取り組んでいる。どちらも収穫した茶葉は伊藤園が全量買い取りをしている。
 JAハイナンと同管内にある吉田町・牧之原市・御前崎市の茶生産者による契約栽培は、2015年に5ヘクタールから契約栽培を開始し、12年目となる現在は、開始当初から約60倍となる300ヘクタール弱に達している。

 JAハイナンの江川さんは「生産現場のコスト構造や実情について丁寧に説明し、ご理解いただきながら、持続的な生産が可能となる条件について相談している」と話す。

 横山さんが所属する勝間田開拓茶農業協同組合も、深蒸し用の茶葉などと並ぶポートフォリオの1つとして伊藤園の契約栽培を手掛けている。
 「契約栽培では、基準を満たすものを作ることに集中すればよく、非常に助かっている。令和6年の非常に情勢が悪かったときも売上を極端に落とすことなく経営が安定できメリットが大きい」との見方を示す。

 横山さんは、こうした取り組みを評価しつつも、伊藤園1社でできることは限界がある。比較的安価な海外産茶葉に圧されずに、日本の茶農家が持続可能となり日本茶文化が守られるには、高騰する一番茶が安定的に売れることが求められる。

 ただし、消費環境や相場は茶農家の人知が及ばない領域であり、横山さんとしては自らできることとして日本茶文化の啓発を挙げる。

 「産地で競い合って生産量を取り戻すのが主ではなく、まずは飲用機会を取り戻すことが重要だと考える。お茶は多種多様に形を変えることができ、急須離れが進んでも、ペットボトルや粉末など形を変えれば、お茶はまだ多くの人に飲まれ、広げられる余地はまだ十分にあると思う。個々でやれることに限りがあるため、行政などの協力を得て進めていくべき」との考えを明らかにする。

 その点、抹茶ブームも光明と捉える。

 「抹茶ブームは茶業界でみると、これまで衰退しつつあった茶業界で、明るい兆しが見え始めたようで、非常に喜ばしいこと。今は抹茶だが、煎茶や深蒸し茶。烏龍茶、紅茶などにも目を向けていただける可能性がある」と期待を寄せる。

新品種「しずゆたか」の苗木
新品種「しずゆたか」の苗木

 生産面では、単位面積1反(10アール)当たりの収量(反収)のアップを図るべく、今年3月、抜根した10アールの畑に新品種「しずゆたか」の苗木200本を定植。

 「静岡県内で圧倒的に多い品種の『やぶきた』が近年の異常気象になかなか適さなくなって、収量が『やぶきた』よりも圧倒的に多く病害虫にも強いとされる『しずゆたか』へと段階的に改植していく。このようにいろいろ工夫して、農業の中でお茶って面白いと思ってもらえるようにして、息子でなくてもよいので次世代に継承していき、茶畑が広がるこの美しい景観や日本茶の文化を守っていきたい」と力を込める。

 日本茶の価値を知り、選ばれる一杯を積み重ねることが、日本茶の文化と産地を未来につなぐ。その選択は、生産者だけでなく、消費者一人ひとりに委ねられている。

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