味の素社は、若手社員を中心に、地域の食と健康課題を解決する「地域共創プロジェクト」を始動。東京本社発のマーケティングでは捉えきれない「地域ならではの課題」があるのではないかという仮説のもと、約1年をかけてそれを解決するアイデアを出し合い、昨年9月から支社主導の取組みとしてアクションを開始した。そこで本社の1名を交え、実際にプロジェクトに携わった東北支社3名(計4名)で座談会を開催。「地域共創プロジェクト」の目的や具体的な施策、成果などを話してもらった。
東北支社3名に背景と成果を聞く
「地域共創プロジェクト」は、味の素社の強みである全国規模でのマスマーケティングによるブランド育成や、新製品投入に合わせたCM投下、営業による一斉売場獲得などの強みを活かしながら、営業部門(5支社)の若手が収集した施策を立案・実行して行くことが特徴。本社事業部門のマスマーケティング活動は継続しながら、事業部門と営業が一体となり、よりエリア密着型のマーケティング活動を行えば、さらに大きな価値創造(地方の食と健康への貢献→売上・ブランド強化)が得られるとの考えからスタートした。
参加者は食品事業本部コンシューマーフーズ事業部販売総括グループの川野海太氏。東北支社からは家庭用グループの山﨑瑛二氏、東北支社北関東営業所の西谷太一氏、東北支社家庭用グループの大谷美結氏の4氏。
本社と営業のつなぎ役の川野氏。「生活者ニーズが多様化する中、本社のマス対応と、地域営業の提案を掛け合わせたら面白いのではと思った矢先、支社側から手が上がった」と言う。
最初は東京支社勤務だった山﨑氏。マーケティングを経て東北支社に配属されたが、「せっかく東北に来て、東北なりの食文化があるのに、まだ活かしきれないと思っていた矢先、本社から誘いがあり若手として手をあげた」。大阪出身の西谷氏も「東北の食文化に触れ合う中で東北が凄く好きになった。こうした折、東北では意外に野菜が余っていることを知り、どうしたら東北のお客さんに刺さるかなど若手同士で意見交換してきた」と言う。「日々の営業活動の中で知らず知らずのうちに視野が狭まっていた」と振り返る大谷氏。「野菜をダシに漬ける食文化を浸透させようという企画を聞いて、東北エリアでも何かができると感じた」と言う。
情報収集から始まったプロジェクト。東北支社には東北エリアの生活情報を集めた「東北ディクショナリー」があり、そこから生活者課題のあたりをつけた。また、社内のAIを活用し、地方の食文化や世帯構成などを調べるなどWebでの生活者調査も行った。一方、AIでは収集できない生々しい情報もメンバーは愚直に調査。3~4家庭を訪問して生活の様子を取材。主婦層へのグループインタビューも行い、東北の食生活における課題を洗い出した。
「東北ディクショナリーを通して生活者ニーズを洗い出し、加えてAIで食文化や歴史を分析。実際にご自宅を訪問し、食卓ではどういう食べものを並べ、どういうものを食べているかなどを調査。インタビューで生の声で情報を集め、課題を洗い出した」(山﨑氏)。おじいさん・おばあさん・お父さん・お母さん、息子さんの三世代が同居する家庭を訪問した際、西谷氏は「まずは食卓に料理の品数が多いというのが第一印象。おじいさん、おばあさんは医者から減塩を勧められ、お母さんも両親の健康を気遣い、減塩しなければならないと思ったが、減塩商品はあまりおいしくないという共通認識があることわかった」と言う。しかも「減塩というワードが独り歩きすると、おいしくなさそうとか、味が決まらないなど、今まで考えていた仮説との隔たりが起こる。減塩というビックワードのほうが生活者は飛びつきやすいが、今回の取組みを通して、減塩が先走ると逆に〝あまり実践したくない〟とうネガティブなイメージのほうが前にでてきてしまうことを学んだ」(大谷氏)。
「減塩」ワード外し、知らぬ間に減塩

支社の若手メンバーによる生活者インタビューなどを通して、2つのリアルな課題が浮上。一つ目は「様々な野菜が手に入るが持て余していること」。二つ目は「減塩の必要性はわかっているが、おいしさの不安・不満から実践が進んでいないこと」。
この2つの課題を解決するために生み出されたのが「ほんだし」&「味の素」を使った「だし漬け」という新メニューだ。自宅にある野菜を「ほんだし」&「味の素」でもみ込み、10分ほど漬けたら完成。漬物がおいしく・簡単に作れる上に結果的に減塩になるというすぐれもの。

全国でも特に高齢化が進み、漬物消費も多い東北地方。東北には特有の漬物への愛がある一方で、少人数世帯が増え、自宅で漬物を漬ける人が少なくなっている。手軽に食卓に出せる1品が必要とされているが、漬物の塩分量が高いという課題もあった。
塩分過剰摂取が課題としてある中、その解決策として減塩をまったく押し出さないメニューが「だし漬け」だ。生活者との対話を繰り返す中で、減塩意識は一定量は醸成されているものの、既存の減塩に満足できず減塩行動の継続ができないことを発見。無理なく自然に減塩行動ができる仕組みが必要だと実感したと言う。また自家菜園やおすそわけの文化から、旬の野菜が大量に手元にあることが多く、野菜消費法のマンネリ化にも生活者の悩みがあった。
地域の流通の理解を得たことで、重点16企業、1,953店舗中797店舗(実施率40%)が「だし漬け」の販売を開始。また「店頭什器・POP」×「Web・ローカルメディアでの発信」×「行政・イベント」という異なるタッチポイントで立体的なコミュニケーションを実施。ほとんど広告費をかけなかったが、生活者への情報伝達ができた。
実施率40%、流通からも高評価
東北6県の主婦の認知率は12%に達し、実践率は40%(認知者ベース)、継続意向は99%(実践者ベース)となり、約20万人ほどがメニューを実際に料理していた。また「ほんだし」の汎用性向上にもつながっており、将来的な「ほんだし」の使用量につながる結果となった。

流通の声として「簡単かつおいしいので生活者に訴求するにはピッタリなメニュー。また、生活者に減塩という単語を使った訴求はどうしてもネガティブなイメージを与えてしまい、実践しにくい状況だったが、減塩を打ち出さずに自然と減塩できる訴求方法はとても良い」と高評価。生活者からも「余り野菜の活用方法で困っていたから早速実践する!漬物を買うとそれなりに高いのでありがたい」「手軽で美味しいから、これなら毎日作れそう。食卓にさっと1品足したいときに便利」などの声があがった。
4人からも「だし漬けは、気づいたら減塩になるというメニューとしての魅力と、余った野菜を一気に消費できることからフードロスにもつながる。流通でもいろいろなフェアに組合わせられ、ほんだしの売上にもつながる」(川野氏)。「だし漬けで培った知見を活用し、違った新しいメニューができればおもしろい」(山﨑氏)。「その土地の魅力や食材、文化を知った上での提案に活かしたい」(西谷氏)。「減塩以外にまだ眠っている課題があるはずで、それを見つけて新しい取組みにつなげたい」(大谷氏)などの様々な意見が出た。
今回の取組みは、支社ASV活動や流通の各種MDへの幅広い対応が可能で、汎用性の高い提案の切り口であることが判明。プロジェクトとして「今後は、この強みを活用し、東北の生活者の食と健康に貢献すると共に、ほんだしの露出策として推進していきたい」としている。
座談会に参加した高廣佐奈恵食品事業本部コンシューマーフーズ事業部新領域グループ長は、「エリアによって摂れる野菜が違えば食文化も違う。生活者の近い現場のことを考えると、よりリアルな世界が見えてくることがわかった」。梶敬食品事業本部コンシューマーフーズ事業部新領域グループマネージャーは、「若い人たちの社会貢献の意識が変わる中で、世の中のためになることをして売上利益に結びつけることは難しくなってきたと改めて感じた」。食品事業本部マーケティングデザインセンターコミュニケーションデザイン部の植野友生マネージャーは、「味の素グループは社会価値と経済価値を共創するASVを推進しており、若い人も年齢を重ねた人にも、全社員にASVの考えが社風として根付いている」など感想を語った。
