BMI(肥満度)が正常でもサルコペニア(筋肉減弱症)になりうる――。
大塚製薬は12月2日、フレイル(虚弱)研究・予防の第一人者である東京大学高齢社会総合研究機構機構長の飯島勝矢氏を招いたメディアセミナーを開催し、冒頭のようなフレイル予防で見過ごされがちな大切な点を知らしめるとともに大切な点への気づきを促す新コンテンツ「フレイル予防支援VR」を発表した。
フレイルとは加齢により体力や気力が弱まっている状態を意味する。健康な状態と要介護状態の中間の段階にあり、フレイルであることを自覚し予防に取り組めば健康に過ごせていた状態に戻すことができる。

フレイルには身体的・精神的・社会的と多面的な要因がある中で、飯島氏が特に着目するのは社会的な要因。
「たんぱく質をあまり摂らず低栄養になっただけでフレイルになるわけではない。運動習慣がないからフレイルになるというような単純な方程式でもなく、人とのつながりも含めた社会的な要因が非常に大きく存在する」と指摘する。
飯島氏は、人とのつながりの重要性を示すものとして、自立した高齢者約5万人を対象に実施した調査(2019年・日本公衆衛生雑誌)を引く。
同調査によると、運動習慣があり文化活動とボランティア・地域活動を行っていない人のフレイルリスクが6.4であるのに対し、運動習慣がなく文化活動とボランティア・地域活動を行っている人のフレイルリスクが2.2となる。
これについて「今まで運動習慣ありきでフレイル対策を指導してきた側面が強く、運動習慣も推奨するのだが、非運動性活動だけでもばかにならない。仲間で目標を立てるといったこともウェルビーイングやフレイル予防につながり、もっと幅広い指導内容でやっていくべきというメッセージ」と説明する。
非運動性活動とは、外出して人とつながるといった、典型的な運動ではないものの結果的に動いている身体活動のこと。
「ちょこちょこ動いている状態であり、私の言葉でいうと『ちょこ活』。運動を全くせずとも充実し、誰かと歩き、みんなでワイワイ食べることが重要になってくる」と語る。
フレイルの身体的要素としては筋肉維持の重要性に触れる。
「健康診断の項目に筋肉は入っておらず、住民同士・シニア同士で筋肉の衰えをチェックし合うことが必要。単に握力や体組成計で筋肉量を測ればいいということではなく、サルコペニア対策には社会性も含め生活内容全体を底上げしたほうがいい」と呼びかける。
サルコペニアのリスクはBMIと相関しない。
やや肥満(BMI26.0)で太ももの筋肉量が多い人(A)と、BMIが正常(BMI22.3)で太ものの筋肉量が少ない人(B)のほぼ同体格の2人の事例を示し「メタボ予防でAは食事を減らしなさいと言われ、Bはそのままでよいと言われる。しかしBは超重度のサルコペニアであっという間に要介護になる方。メタボ予防は中年層をベースに考えられ、これと同じものさしを70代・80代に当てはめてしまうと、このようなねじれ現象が起きてしまう」と指摘する。
「フレイル予防支援VR」は、フレイルの兆候をVRで疑似体験することで早期の気づきを促すもの。ジョリーグッドとの共同事業であるVR (バーチャルリアリティ)トレーニングプログラム「FACEDUO(フェイスデュオ)」の一環として開発された非医療機器となる。
動画ではなく一人称化できるVRで疑似体験してもらうことで、より集中・自分事化してもらうことを意図する。
大塚製薬ポートフォリオマネジメント室DXアライアンス担当プリンシパルの大西弘二氏は「VRの特性を活かしてまず気づきを与え、さらにそこから興味喚起につなげ、最終的には行動変容を促していく」と説明する。
自治体主催の健康イベントや地域包括支援センターでの啓発活動、医療・介護施設でのフレイル予防支援教室など幅広い場面での活用を想定する。

「支援者の方が一般の方にVR体験を促し指導していくことを想定しており、導入先については自治体や企業、医療・介護施設になるかと思う。一事業所あたり月額3万円から利用できる」という。
飯島氏は「フレイル予防支援VR」とともに、全国の市町村に設置を要請している地域高齢フレイルサポーターの存在を重視する。
「フレイルサポーターに引きこもり気味な方を一人二人(施設などに)連れてきてもらい、仲間を増やしていく。ローラー作戦であり、時間を要するが、これが一番強い」と飯島氏は力を込める。
