味の素AGFが従業員の多様なニーズに対応するため人事制度を整備 選択の幅が広い環境で安心して楽しく働くとパフォーマンスも高まるという発想

 味の素AGFは、かねてよりフレックスタイム制の導入や所定労働時間を1日7時間と定めるなど多様な働き方実現に向け、人事制度を整備している。

 人事制度の根底には、自己裁量の幅が広いなど、多様なニーズに合わせて環境で安心して働ける環境が整うと能動的になりパフォーマンスも高まるという発想がある。

 取材に応じた人事部の小椋比呂美さんは社内の諸制度について「社員のパフォーマンス向上が一番の目的。そのために社員が安心して働けて、キャリアを継続できるというところに主眼を置いている」と語る。

 AGFは2023年、必要人財の充足化・成長化・活性化・安定化の4つを柱とする「HRコンパス」を開始し人的パフォーマンスの最大化を図っている。

 フレックスタイム制の導入や1日7時間の所定労働時間は、4つの柱のうちの1つ必要人財の安定化の取り組みとなる。

 AGFでは今も、在宅勤務の上限日数が設けられていない。
 「顔を見て打合せをしたい場合は出社して意見をぶつけたり、自宅で集中したい時は在宅勤務を活用するなど、働く時間や場所にとらわれすぎずに、最も生産性が上がる働き方を自律的に選択し、パフォーマンスを最大化させることが狙い」と説明する。

配偶者海外転勤同行休業制度を新設

近年の環境変化や意識変化により従業員のニーズがますます多様化・複雑化していることにも対応する。

 顕在化しているニーズへの対応では、24年10月1日に新設した「配偶者海外転勤同行休業制度」が挙げられる。
 配偶者の海外転勤は、小椋さんが人事部に着任した2011年頃から1年に2件程度、相談が寄せられていた案件だという。

 同制度が設けられたことで、配偶者が勤務先から命ぜられた転勤・留学か、事業の経営など個人が行う職業上の活動のいずれかで転居が必要で就業継続と配偶者との同居の両立が困難な場合、1人1回限りで1年以上3年未満の休業をとることができるようになった。

 「最近になって配偶者の海外勤務の相談件数が増えている感覚がある。従来の人事制度では、AGFを退職するか別居してAGFで働くかの二択しかなかった。退職を決断した方からは“AGFが好きで本当は辞めたくなかった”という声もあり切実な問題だと判断して導入に至った」と振り返る。

 10月1日の新設以降、既に3人の社員が同制度の利用を申請した。

 「長い目で使ってもらえればいいと考えていたので、早速申請が上がってきたことに少し驚いた。人財流出を防ぐことができてよかったと思っている」と胸をなでおろす。

 同制度は、申請の必要に迫られない社員にも有用だという。

 「やはり、どうしても先の見通しが立たないと不安だったりすると思う。そういう意味では、様々な選択肢を提示することでキャリアを長期的に考えていけるという目的も果たしている」との見方を示す。

不妊治療休業制度を新設

「配偶者海外転勤同行休業制度」とともに新設された「不妊治療休業制度」は、潜在的なニーズを組み取ったものとなる。

 不妊治療休業制度では、体外受精・胚移植、凍結胚・融解移植、顕微授精の生殖補助医療、これらに準ずる治療で、人工授精および代理懐胎以外の高度生殖医療を受ける場合に、原則1回1年間(1人の子どもにつき)の休業の取得を可能とする。

 「不妊治療はセンシティブな問題であるため、直接人事部に相談しにくいという課題があったが、周囲から不妊治療をされている人の話が聞かれるのと、22年に人工授精等の一般不妊治療、体外受精・顕微授精等の生殖補助医療について保険適用されたことを踏まえて導入した。ニーズを受けたというよりも、困ったときに活用できる制度がある、という安心材料の要素が強い」と述べる。

自律的キャリア形成の制度設計に注力

 必要人財の充足化には、AGF退職者に再就職の門戸を開く「カムバック制度」や65歳以上の70歳までの雇用継続制度などを設けている。「カムバック制度」では、第1号社員が復帰したほか、25年1月には新たに2人が復帰した。 

 必要人財の成長化の取り組みの一例には、キャリアパスの複線化がある。

 「研究や専門職を希望する社員に向けて、自分の適性に応じてマネジメント(ライン)と専門職の2通りのキャリアが築けるようになっている。単線でのキャリアアップに留まらず、両方を行き来しながら幅を広げてキャリアを高めてもらうのも目的のひとつ」という。

 社員が全社員のプロフィールにアクセスできる人財マネジメントシステムも特徴。

 「社員の趣味や家族、保有スキルなど、本人が公開した情報は自由に閲覧できる環境を整えている。これにより、マーケティング部への異動を希望する社員が、現在マーケティング部に所属する社員の資格や経歴に触れ、自分の足りないところを知ることができる」と語る。

 必要人財の活性化には、部署横断のプロジェクトや行動指針の策定などがある。

 「時間創出チャレンジというのがあり、無駄なことを縦だけで考えても限界がある。部署の垣根を越えて取り組むことで断捨離していく」と述べる。

 今後は、キャリア形成の施策に重きを置く。

 「今後は社員一人一人が自律的にキャリアを形成していくための制度設計に注力していく段階なのだと思っている」との考えを明らかにする。

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