歴史的な価格高騰となったカカオ豆。この“カカオショック”に、チョコレートの販売金額でトップシェアを握る明治はどう動くのか――。
この問いに対し、取材に応じた吉田彰グローバルカカオ事業本部カカオマーケティング部部長は「主要調達先ガーナ共和国(ガーナ)の供給が元に戻るかは不透明なため、調達先の分散、カカオ由来原料の使用量などいろいろな策を講じないと事業の継続が難しくなる。カカオマスとココアバターの使用量を抑えた商品を増やしていく」と語る。
カカオ相場については、ロンドンココア先物のデータを引き「平時では1トン2000~3000ポンドで推移していたのが昨年から高値圏で推移し、今年4月中旬には1万ポンドの歴史的な高値を記録した。以降も5000~6000ポンドと平時の2~3倍で推移している」と説明する。
今後の懸念材料は、原材料価格が高止まりする可能性に加えて、原材料の安定調達にある。
国内主要メーカーの大半は、事業継続のために高値でも原材料を仕入れざるをえず、そのコストアップ分を十分に価格転嫁できていないのが実情とみられる。
「日本のカカオ調達量は全世界の1%程度。近年、世界の総生産量は年約500万トンで推移していたのが、ガーナの不作により約1割減の450万トン前後となったことで、価格高騰とともに、ますます調達が難しくなってきている」との見方を示す。
明治では、MCS(メイジカカオサポート)を通じて、ブラジル・ドミニカ共和国・エクアドル・ペルーなど調達先を多様化。これにより、他社と比べ南米産の比率が高いものの「市場と同じく使用するカカオ豆の8割近くがガーナ産で占められている」。
ガーナの不作は、地球温暖化の影響に加えて、ガーナがデフォルトしたことで農協の役割を果たす政府機関「COCOBOD(ココボード)」が十分に機能していない点を起因とする。「異常気象や病害発生などの影響で不作が続いていると聞く。金の採掘で森林が切り倒されているという報告もある。新たに植えられたカカオが結実するには3~5年程度かかるため、生産量は急には増えない」と述べる。
明るい兆しとしては、ガーナの隣国で最大のカカオ豆生産国となるコートジボワールでの増産見込みがある。「来年の収穫量は上がるという見方もあり、メーンの調達先がガーナであることに変わりはないが、欧米など主要消費国への供給が潤沢になることで日本に回ってくるカカオ原料が増えてくる可能性がある」とみている。
商品面では、一時的な措置として「きのこの山」「たけのこの里」「アーモンドチョコレート」の主要商品に使用するカカオ原料の一部を植物油脂で代替する。
カカオマスを使わないホワイトチョコレートや焼き菓子を組み合わせたチョコレート菓子も拡充していく。チョコレート菓子などの積極投入は、チョコレートが溶けやすくなる夏場の猛暑対策にもつながる。こうした考えを加味した秋冬新商品は10月1日に東日本限定で販売開始した「チョコレート効果カカオ72%カカオクランチ大袋」。
同商品は、「チョコレート効果」ブランド初のクランチタイプで、高カカオチョコレートと全粒粉ビスケットの新しい組み合わせの商品となる。
「チョコレート効果」の間口(喫食者数)拡大が同商品の主目的。
「もう少し手軽に気軽に食べられる商品で『チョコレート効果』のユーザーを広げていきたい。カカオマスと砕いた全粒粉の焼き菓子を組み合わせた。ポリフェノール量をしっかり担保しながら買いやすい商品にチャレンジしていく」という。
カカオショックで暗雲が垂れ込めるチョコレート業界。長期的には、業界あげてピンチを乗り越えてきた過去から吉田部長は悲観していない。
「戦中にはカカオ豆がまったく入ってこなかった期間があったと聞く。そのような時も業界ではいろいろ対策を講じてきた。日本のチョコレートは創意工夫の歴史であり、今回も乗り越えられると信じている」と力を込める。