味の素AGFに入社して左も右もわからない社員に課されたミッションは新商品の開発 新しい価値観を取り入れるべくOJTに風穴

 味の素AGFの井口夢香さんは、23年4月にAGF入社し、開発研究所商品開発部健康・ティー開発グループ配属後ほどなくして新商品開発というミッションが課される。

 その後1年足らずで生み出されたのは、今年3月1日に発売開始されたマイボトル専用パウダードリンク「ブレンディ」マイボトルスティック(以下、マイボトルスティック)シリーズの「ピーチルイボスティー」と「マスカットルイボスティー」の2品。

 今年入社7年目を迎える松村美里さんとともに開発した。

 マイボトルスティックは、マイボトルと組み合わせることで、簡便・バラエティ・環境・経済性の4つの生活価値を訴求するとともに、新たな切り口として常温ドリンクのニーズや透明ボトルによるSNS映えの意識にも対応した新機軸商品。

 その開発には新しい価値観を取り入れる必要があったことから、計6品種のうち2品種の開発を、知識や経験が皆無に等しい新入社員にも委ねた。

 これは、ティー開発グループとしても、修練を重ねてから商品開発に携わるといった従来のOJT(On The Job Training:職場内訓練)に風穴を開ける初の試みであった。

開発研究所商品開発部健康・ティー開発グループの中村厳海グループ長(右奥)、山本由紀グループ長代理(左奥)、松村美里主任(右)、井口夢香氏(左) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
開発研究所商品開発部健康・ティー開発グループの中村厳海グループ長(右奥)、山本由紀グループ長代理(左奥)、松村美里主任(右)、井口夢香氏(左)

 ティー開発グループ長の中村厳海さんは「マイボトル専用パウダードリンクのため、ホットの飲み方とは異なる視点が絶対に必要だと思った。変化のスピードが早くなり、新しい価値観を反映させた商品は、早いうちに若い方が担当したほうがよいとそもそも思っていた」と語る。

 マイボトルスティックの開発と時を同じくして井口さんが配属。これを機にOJTの仕組みを全て変えたという。

 「これまでは作り方などを全て教えてから卒業といった流れであったが、せっかく新しいチャレンジとして、新しい感性を取り入れた商品をつくるのであれば、今までのやり方を全て変えてみようと思った。少しチャレンジングな試みではあったが、固定観念にとらわれず、生活者により近い視点に期待を込めてお願いした」と述べる。

 開発を振られた井口さんは、原材料を覚えるところから始める。

 「左も右もわからない状態でスタートした。1つの商品にたくさんの原料が使われており、それらを1つ1つ覚えていった。原料を配合する際、1g以下のわずかな匙加減で香りや風味が異なってしまう点に面白さと難しさを感じたのを覚えている」と井口さんは語る。

 マイボトルスティックは、アイス・ホット・常温の幅広い温度帯と、350mlから500mlまでの、どのレシピにも適した設計になっている。
クリアすべき条件が多岐にわたるため、開発のハードルは高いものとなった。マイボトルでの様々な溶解方法も検証した。

 仕様決定までに数十通りの試作とグループ内で100回以上の風味評価を行った。

 井口さんともに開発に携わった松村さんは、無糖のお茶で果汁感を出すことに難しさを感じたという。
 「甘味を入れられないというところで、呈味(ていみ)成分で果汁感をアップさせなければならいのが大変苦労した点。既存フルーツティーのフレーバーエンハンス技術を活用して、甘さのないお茶でも果汁感のある風味に仕立てることができた」と松村さんは説明する。

 OJTのあり方を変えた今回の開発の進め方はベテラン社員にも好影響を与える。

 2019年からスティック商品の開発を担当する山本由紀さんは、今回、サポート役に回った感想について「自分の中で当たり前と思ってしまっていることをもう一度整理して教えることができた。井口さんが私と異なる視点で提案や相談してくれたことでも気づきが得られた」と述べる。

 商品化というアウトプットからのアプローチは、知識の定着にも寄与するとみられる。

 山本さんは「飲み込みが早かったと思う。既に次の商品開発も一人で担当している」と井口さんを評する。

 井口さんも「開発フローを一通り経験できたのは自分の経験値を大きく高めることにつながった」と感謝する。

 今回のOJTの変革は、グループ長・中村さんの思いがにじむ。

 中村さんは「スティックを13年くらい経験した後、一番大きなプロジェクトを担当させていただいた。20歳くらい年上の部長から技術を受け継ぐ中で“担当者を独りぼっちにさせるのではなく、周りで完全に支えれば担当者は絶対に成長できる”ということを経験させていただいた」と振り返る。

 家庭用商品は、コンシューマービジネス部と連携して行われ、健康ティー開発グループから商品を提案するケースもあるという。
 中村さんは、今後の意欲作の開発に向けて、大きな声で挨拶することや新しいものへの好奇心、センス磨きをグループのメンバーに呼びかける。