キリンHD新社長に南方常務 9年ぶり交代、磯崎社長は会長に 「イノベーションの連鎖を」

キリンホールディングスは2月14日、社長交代の人事を発表した。取締役常務執行役員の南方健志氏が新社長に昇格。9年間務めた磯崎功典社長は、代表権のある会長に就任する。

ヘルスサイエンス事業を成長シナリオの重要な柱のひとつに掲げるキリングループ。ヘルスサイエンス事業本部長を務めてきた南方氏の抜擢により、持続的な成長に向けた体制固めを行う。

「社長は時代が選ぶもの。乱世もあれば平穏なときもある。先が見えないときや、変革が必要なときもある。いま誰がふさわしいかを考えた」。磯崎社長は同日の会見で、後任に託す思いを語った。

最終的な決め手は、南方氏の「胆力」。16年のミャンマー進出当時(現在は撤退)、現地ブルワリーの社長として、言葉も通じず混とんとした現場をまとめ上げた。その後に社長を務めた協和発酵バイオでは、長年にわたり抱えてきた品質問題をチーム一丸で解決。その胆力に、磯崎氏は絶大な信頼を寄せる。

南方氏は、まず取り組むべき課題として人材・ブランドへの投資を挙げる。

「それによりイノベーション創発の連鎖を回し、各事業の成長を力強いものにする。現場の実態を肌で感じながら課題を解決し、事業を成長させるスパイラルを回していきたい」。

長期的な飲酒人口の減少やアルコールへの価値観変化から、将来に向けた戦略の練り直しを迫られる酒類業界。磯崎氏は「日本だけでなく、成熟した国に共通した悩み。今の(ビール大手)4社体制がこのまま生き残れるか、私は難しいと思う」として、付加価値の高い商品・サービスで「選ばれるブランド」になることの重要性を強調する。

主力ビール「キリン一番搾り」開発当時、生産部門代表としてマーケティング部門と渡り合った南方氏。

「(一番搾り麦汁だけを使う)『一番搾り』の製法は、本気で考えているのだろうかと当初は戸惑った。だが現場で作りこみ、最終製品を目の当たりにしたとき、今までにない価値ある商品になると確信した。新しい発想をどんどん取り入れモノづくりのイノベーションを起こさねばならないと、現場で学んだ」と語る。

ヘルスサイエンスで成長けん引へ

次なる成長をけん引するヘルスサイエンス領域では、昨年に買収した豪ブラックモアズ社との協業を通じたアジア太平洋での成長戦略が目下最大のテーマ。「将来の成長の基礎を築けるか、実行力の問われる年だ」(南方氏)。

「直感型の私に対して、南方はきわめて論理的。自分とは違うタイプだが、似た者同士だとろくなことにはならない。この複雑な時代、意見が違うことが大事」と語る磯崎氏。南方氏について「飲んでも私みたいにばか笑いはしないが、非常に楽しい人」とも評する。

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南方健志(みなかた・たけし)氏=1984年キリンビール入社。企画部長などを経て、キリンホールディングス常務執行役員、ミャンマー・ブルワリー社長、協和発酵バイオ社長などを歴任。22年から協和キリン取締役、キリンHD常務執行役員兼ヘルスサイエンス事業本部長、23年から豪ブラックモアズ社取締役。3月28日の株主総会で代表取締役社長COO最高執行責任者に選任予定。広島県出身、62歳。