渋沢公が案じた食料安保

自宅近くの公園で「化学肥料創業記念碑」なる石碑を見つけた。建立は昭和18年11月。太平洋戦争の旗色が悪くなり学徒出陣の壮行会が行われた頃。当地には明治から大正にかけて化学肥料製造工場があったという。

▼題字は「尊農」。冒頭で渋沢栄一氏らが農業の重要性を説いていたと紹介する。「日本は経済の発展に伴い人口が急増し、いずれ食糧問題に直面。その解決には農業の発達と肥料の合理的な使用が不可欠」とあり、官民一体で化学肥料の産業振興を図ったことを記す。

▼ロシアのウクライナ侵攻を機に「食料安全保障」が注目を集める。食料自給率の低いわが国にとって有事の輸入途絶は国民の生命を脅かす。しかし農政の失敗を指摘する専門家の声とは裏腹に、いまの政府に農業を立て直す気概は感じられない。

▼日本はいつからか食料の自給を放棄し輸入への依存を高めてきた。背景には欧米中心の国際秩序がある。しかし近年はこの体制に綻びが見え始めた。グローバル化は必須だが、渋沢公らが案じた食料自給を一人一人が自分事で考える必要がありそうだ。