日清食品の「完全メシ」ブランドは、2023年9月末までの累計出荷数が1千500万食を突破した。発売から1年4か月での達成となる。カップ麺・カップライス・冷凍食品・スムージーなどをラインアップし、これまでにないコンセプトの商品群としては異例のスピード記録だという。加えて、新たなチャレンジとなる社員食堂などBtoBの市場開拓にも注力。すでに数百種類ものメニューを「完全メシ」化した。ビヨンドフード事業部の矢島純部長は「あらゆる喫食シーンに向け『完全メシ』を展開していく。まずは来期に100億円ブランドの達成を目指す」などと語った。
■33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求
「完全メシ」は、「日本人の食事摂取基準」で設定された33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求したブランド。三大栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)をはじめ、ビタミン、ミネラル、必須脂肪酸も適切に整え、しかもおいしさを実現している。開発背景には、オーバーカロリーによる肥満や、必要な栄養素やカロリーが不足する「隠れ栄養失調」など、現代における食の課題解決に貢献したいとの想いがある。
製品化にあたっては即席麺等の開発で培ってきた日清食品の最新フードテクノロジーを駆使している。矢島部長は「単に栄養素を加えるだけでは苦みやエグみが出てしまっておいしくならない。また時間の経過とともに減衰する成分もある。栄養素とおいしさのバランスを取ることは容易でない。開発スタッフは膨大な数の試作を繰り返している」と苦労の一端を明かす。
■ECとの親和性に手応え
本事業を推進する「ビヨンドフード事業部」は22年1月に発足。安藤徳隆社長が掲げる壮大なビジョン「日本を、未病対策先進国へ」を実現するため、「従来の延長線上では目標を達成できない。あらゆる生活者や喫食シーンを想定し、タッチポイントを広げていく」(矢島部長)との方針。
同部内にマーケティング部を置き、当初から担当カテゴリーを「グロッサリー」「フローズン」「BtoB」の3領域に設定。グループの研究開発拠点「the WAVE」(東京都八王子市)では「フューチャーフード研究開発部」を専任部門とし、同じく3領域に対応できる開発体制を整えている。
「完全メシ」ブランドは、22年5月に第1弾でカップ麺・カップライス・スムージー・グラノーラの計5品を自社グループのオンラインストアで販売開始し、同年秋から全国のスーパーやコンビニに販路を拡大。その後はアイテムを順次追加し、直近の23年9月に「同 日清焼そばU.F.O. 濃い濃いお好みソース焼そば」「同 ハヤシメシ デミグラス」「同 トマトクリームポタージュ」の3品を新発売した。
多くの小売業で「完全メシ」の専用棚が設けられた効果もあり、販売は堅調に推移している。上位アイテムは「同 カレーメシ 欧風カレー」や「同 日清焼そばU.F.O. 濃い濃い汁なし担々麺」など。購入者はメインターゲットに位置付ける30~40代男性の割合が比較的高いという。スムージーとグラノーラは女性の支持が圧倒的で、ECとの親和性も高いことから新たな顧客層の獲得にも繋がっている。
22年9月、EC限定商品として「冷凍 完全メシ」シリーズを立ち上げた。「かつ丼」「牛丼」「欧風ビーフカレーライス」「汁なし担々麺」「チキンドリア」「テリヤキチンピザ」などを相次ぎ発売。「罪悪感のあるガッツリ系のメニューを揃えたことが日清食品らしさ」(矢島部長)との想いを込めたラインアップだが、直近は好みの品数と期間を選べる「定期コース」の販売が顕著に伸びているという。「『完全メシ』のコンセプトとECの親和性は非常に高いと感じる。将来的な事業の成長を図っていく上でも重要になってくる」と展望する。
■BtoB向けに数百種類のメニュー開発
社員食堂や外食などのBtoB領域をターゲットにした展開も加速させている。すでに数百種類ものメニューを「完全メシ」化。栄養とおいしさのバランスにこだわった多彩な料理をそろえる。直近では一部スーパーで「完全メシ」の惣菜・弁当のテスト販売を始めた。
矢島部長は「例えば社員食堂向けには常時40種類以上の献立(約2か月分)を提供できるように準備している。ただしずっと同じメニューを出し続けるわけにはいかない。開発スタッフはおいしさに妥協せず、常に新たなメニューの『完全メシ』化にチャレンジしている」と取り組みを話す。
ちなみに「the WAVE」のフューチャーフード研究開発部には元シェフが複数人所属する。メニュー開発の中心的な役割を担っているという。
■次のターゲットは「ラーメン」
「日本を、未病対策先進国へ」をビジョンに掲げ、矢継ぎ早に新施策を打ち出している「完全メシ」ブランド。ただし、まだ商品化に至っていない重要なメニューがある。それは「ラーメン」だ。
同社は「チキンラーメン」や「カップヌードル」を筆頭に、自他ともに認める即席麺市場のリーディングカンパニーだが、矢島部長によると「『ラーメン』はスープを飲む量が喫食者によって変わってくる。また『完全メシ』は塩分量を抑えた商品設計にしており、栄養素とおいしさのバランスを整えることが非常に難しい」という。「開発スタッフは高いハードルにチャレンジし続けている。近い将来に必ず商品化したい」と話す。
一方、「完全メシ」の認知拡大も課題に挙げる。「商品のコンセプトや当社が取り組んでいる意図など、まだまだ伝え切れていない。CMやキャンペーンで消費者とコミュニケーションを深めたり、専用棚を活用した販促や情報発信を工夫したり、マーケティングを総合的に強化していく必要がある」との方針。
まずは来期の目標に掲げた100億円ブランドの達成を実現すべく、「新たな領域にも果敢にチャレンジしていきたい」(矢島部長)との意気込みだ。