コロナ禍の収束やウクライナ情勢の長期化を背景に、日本酒の海外需要に異変が起きている。財務省貿易統計によると、日本酒の輸出額は13年連続(10~22年)で過去最高を更新してきたが、23年1~5月累計は13.1%減(米国34%減、香港19%減など)にとどまった。要因は前年同期に物流事情で急増した反動に加え、主要国の景気低迷があるようだ。一方、入国規制の緩和でインバウンド需要は急回復。メーカーや販売店によっては免税売上がすでにコロナ前を上回っている。関係各社の実情に迫った。
獺祭、輸出+免税でクリア
旭酒造の清酒「獺祭」。海外で強いブランド力を誇るが、1~5月の輸出額は米国などが苦戦し前年割れを余儀なくされた。ただし免税売上は劇的に回復。輸出の減少分をカバーし、「輸出+免税」の合計では前年クリアした。同社は「日本酒の輸出が将来有望なことに変わりはないが、短期的に米国はインフレ、中国は景気停滞で飲食店ルートの動きが鈍っている」との見方を示す。
米国向けの輸出について、国内の清酒大手は「物価高の影響に加え、昨年前倒しで出荷した流通在庫の消化に時間がかかっている。実需は堅調な側面もあり、在庫過多が解消されれば年後半にかけて回復を見込める」と説明する。
白鶴酒造の1~5月の清酒輸出実績は、アジア地区で高価格帯の動きが良いものの、主力の北米が苦戦、トータルで前年割れ。これを補うには至らないが、国内の免税販売(件数ベース)は19年実績を超えてきた。「インバウンドは25年『大阪・関西万博』に向けてさらに弾みがつくのではと期待している」(同社)。
宝酒造インターナショナルの1~5月の清酒輸出実績は、米国向けが前年の反動で縮小し、英国や韓国は伸びるもトータルでマイナス。今後、米国は現地の在庫消化で回復を見込む。商品では43か国(22年12月時点)に展開するスパークリング日本酒「澪」の拡販に注力し、香りに特長がある「昴」も好評のため各国への浸透を図る。
中国人の訪日増に期待
インバウンド需要の回復に関連業界が沸いている。国際線の旅客数はコロナ前に戻り切っていないが、成田国際空港の広報部によると「一部店舗で日本酒の売上は継続的に19年同期比を上回っている」。円安の影響もあり、高単価製品が好調だという。
羽田空港を運営する日本空港ビルデングも「国産酒類の免税店売上は1~5月で19年比を大きくクリア。なかでも日本酒は直近5月の売上が過去最高になった」(広報・ブランド戦略室)と説明。また両者とも「秋頃にかけて中国人旅客の戻りが予想され、今まで以上の販売を期待している」と話す。
このほか、百貨店についても免税売上が復調を見せているが、中国本土からの訪日客が少ない影響で、コロナ前には届いていない。
松屋銀座では「和洋酒の免税実績は前年比こそ大幅増だが、19年比はまだ半分程度」との状況。ただし「従来よりもスタッフが日本酒の品質やおすすめを聞かれることが多くなった。日本酒に詳しい方が増えた印象」と変化を話す。来店が多いのは欧州、韓国、台湾、シンガポールなどからという。