クロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大学水産研究所。その歴史は、1948年に開設した「臨海研究所」(和歌山県白浜町)にさかのぼる。54年に開発した「小割式(網いけす)養殖法」は今では世界の養殖の主流。同研究所は水産養殖のパイオニアとも言える存在だ。近年、乱獲の影響で天然水産資源の枯渇が危惧される中で、あらためて養殖魚の必要性が高まっており、近畿大学が果たす役割は大きい。
ブリとヒラマサのハイブリッド種「ブリヒラ」。近畿大学独自の魚種として開発されたもので、ブリの脂乗りの良さとヒラマサのコリコリとした食感を兼ね備える。ブリヒラは自然界でも稀に自然交配するが、一般に流通できるだけの量は確保できない。近畿大学がブリヒラ養殖に必要な種苗(稚魚)を生産・供給することで商品化が実現している。
本年1月、アセロラ事業を手掛けるニチレイフーズとの共同開発商品「アセロラブリヒラ」を、北関東中心に食品スーパーを展開するベイシア(136店舗、ベイシアマートを除く)で販売を開始した(数量限定)。
「アセロラブリヒラ」は、ブリヒラにアセロラの搾りかすを含有したエサを与えたもの。抗酸化機能により鮮やかな赤身の持続、爽やかな味わいが期待できるという。近畿大学水産養殖センター事業副本部長・谷口直樹氏は「2020年から共同研究に取り組み、これまで『アセロラブリ』『アセロラ真鯛』を開発・販売してきた。『アセロラブリヒラ』の美味しさが認められ、消費者に『是非食べたい』と言ってもらえることを目指す」と力をこめる。
一方、同大学農学部では農業の担い手不足、休耕地・耕作放棄地の増加といった問題解決を図り、奈良県などと連携し「なら近大農法(ICT農法)」の確立に挑んでいる。個人の経験と勘に頼っていた農業にICT(情報通信技術)を導入。農作業の省力化、収量向上を目指す。
農学部・野々村照雄教授は「地温や水分量、EC値(肥料濃度)を感知する土壌センサーと日照センサーを連動させた肥培管理システムにより必要な水分・液肥を自動的に供給。ハウス窓は、温度センサーと連動して自動的に開閉しハウス内温度を一定化する。農作業負担が大幅に軽減され、人件費削減や品質・収量の安定化につながる」と語る。
2017年、ICT農法を活用したミニトマト、メロンの収穫に成功。21年にはイチゴの初収穫を行った。今年2月からはグルメ生鮮食品のECサイト・豊洲市場ドットコムで「近大ICTイチゴ」の販売を開始している。
野々村教授は「果物を用いて様々な加工品販売(六次産業化)に繋げる。『農の入り口から出口まで』の一連の過程にICTを導入、マニュアル化することで女性や障がい者など農業初心者でも農作業が可能となる。担い手不足を解消し持続的農業を実現したい」と抱負を語った。