業界リーダーアンケート 先の見えない原料・コスト高 相次ぐ値上げ、景況感は?

昨年3月の制限解除以降、ウイズコロナという新たな環境下での生活が定着しつつある。“3年ぶり”のイベント開催や飲食業の回復、徐々に戻った訪日客を含めた観光業の復活など、食品業界にとってもコロナ禍で落ち込んだ需要を取り戻す機会が増えた。一方、巣ごもり需要の停滞にともなう家庭内消費が減少したことに加え、値上げの波が容赦なく押し寄せ、消費者の生活防衛意識を高めている。その要因となる原料高やコスト高が沈静化する見通しは、年が明けても立っていない。相次ぐ値上げは消費の停滞を招くが、原料・コスト高を価格に転嫁しなければ利益確保は追いつかない。この難局をどう乗り切るのか。今年も業界トップアンケートを実施し、各社の取り組みを探った。
※ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

今年の景況感 「見通せない」「悪くなる」が増加 “節約志向”が足かせに

まずは例年通り、「今年の景況感」について尋ねた。選択肢は「良くなる」「悪くなる」「現状維持」「見通せない」の4つ。

コロナ禍での先行きの不透明感を示すように、昨年は「見通せない」という回答が最も多かった。今年も同じく「見通せない」が40%と最多で、昨年より5ポイント高まった。ただ、昨年はコロナ禍をその要因に挙げる回答が多かったが、今回は「為替や物価、雇用情勢などが不安定な位置にあり非常に読みづらい」(卸)というように、様々な要因が複雑に絡み、予想するのがより困難になっている状況が浮かび上がる。

さらに、それらに起因する値上げが進んだことで、「節約志向の高まりが購買行動にどこまで影響を及ぼすか見通せない」(菓子)、「値ごろ感のある商品と付加価値の高い商品、健康的なものを求める人、おいしさを優先する人、簡便さとひと手間など、消費の二極化が顕著になっている」(即席麺)など消費行動の変化が先行きをより見えにくくしている。

次に「良くなる」と「悪くなる」がいずれも23%で並んだ。ただ、昨年に比べると「良くなる」の方は9.5ポイント低下したのに対し、「悪くなる」は11.5ポイント増えた。昨年はコロナ禍から解放され、消費が復活することへの期待を込めた声が多かった。春まで行動制限が続いたものの、その後、人の流れは戻り、観光や外食の需要は回復へと向かった。インバウンド需要も徐々に戻りつつあり、前年ほどではないが期待する声は多い。

「日常へと戻りつつあり良くなる可能性が高い」(調味料)、「楽観視はできないが昨年より良くなると期待する」(砂糖)、「訪日外国人の受け入れが緩和され、円安もありインバウンドの回復も期待できる」(塩)。しかし、前年から進行しつつあった原料高は、ウクライナ紛争で加速。急激な為替変動もあり食品原料にとどまらず、資材やエネルギーの高騰があらゆるカテゴリーに多大な影響をおよぼした。いまだとどまる気配もない。「悪くなる」の回答が増えたのには、こうした背景がある。

「コスト上昇を価格に転嫁し続ける必要があり、価格上昇に消費が追い付くか疑問」(惣菜)、「家計への影響は計り知れないほど深刻で、買い控えなどが懸念される」(海苔)、「生活防衛意識が高まり、嗜好品の景況感は厳しいものになる」(菓子)、「場合によってはさらなる上昇の局面も想定されるため、経営環境は一層厳しくなると予測する」(調味料)など「悪くなる」という見通しの根底には、節約志向や買い控えといった消費者の意識が横たわる。

メーカーのみならず流通サイドの懸念も強い。「マーケットシュリンクが進む中、競争も新たな局面に入る。これまで以上に業種・業態を超えた競争が激しくなる」(小売)、「人口減少が進む地方においては、値上げ環境の中でDSやドラッグストアへのシフトが進んでいる」(卸)と業態間競争の激化を懸念する。

「変わらない」との回答は14%。「外食はインバウンド需要の増加やリベンジ消費もあり回復傾向だが、人手不足を補いきれない」(製粉)、「巣ごもり需要から行楽需要の本格回復へ移行する半面、値上げによる生活防衛意識の高まりから需要は綱引き状況となる」(海苔)、「コロナを受け入れ、生活の安定が期待できる一方、節約志向により廉価品を求める意識が強まると予想する」(乾物)。消費がより活発になるという希望を示しながら、ここでも節約意識の高まりが足かせとなっている。

このほか、「節約志向により売れないものとそうでないものが鮮明になる」(健康食品)、「政府の政策により左右されるため依然として見通しは厳しい」(卸)という意見もあった。

コロナ前に比べ売上高は? 食品業界にはプラス 「増加」が66% - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)

コロナ前に比べ売上高は? 食品業界にはプラス 「増加」が66%

コロナ禍は各社の売上にどれほど影響を与えたのか。コロナ前の2019年度と22年度の売上数字の変化をたずねた。売上においてはプラス効果の方が大きかったようで、売上高が10%以上伸びた企業が25%、10%未満の41%と合わせると66%が増加したと答えた。

「コロナを一つのきっかけにカップ麺に対する消費者の価値観が変化、コロナ前に比べ高止まりに」(即席麺)、「安定した市場拡大が続いた」(惣菜)、「顧客ニーズの変化に対応でき、事業を拡大することができた」(健康食品)などコロナ禍で強まった健康、簡便志向をとらえたカテゴリーの伸長が目立った。

また、「人手不足を背景に外食・小売業における省人省力化ニーズが高まっている。顧客のすそ野が広がり新たな需要も生まれている」(機械)など、新たな課題の解決に対応した業種も売上を大きく伸ばした。

このほか、「巣ごもり需要で好調に推移した卓上用や手巻き用が家庭に浸透した」(海苔)、「家庭用の構成比が高いため、巣ごもり需要で伸長しその水準を維持している」(乳業)のように、巣ごもりをきっかけにその後も支持され続けている商品もある。

「宅配需要の増加による中食の伸長、給食市場の伸びが寄与」(冷凍食品)、「行動制限の緩和で、仕出し・給食業態が回復」(惣菜)など業務用回復の効果も見られた。また、「出荷数量は下がっているが、製品価格の値上げで売上高は増加」(砂糖)、「食肉価格の高騰に対し、国内外で価格転嫁を進め伸長した」(食肉)のように、値上げが売上増に寄与した分野もあった。

「同じ」との回答は11%。「家庭用は需要増を継続。業務用はホテルや外食が回復傾向ながら、コロナ前に比べると遅れており全体的にはほぼ同等」(冷凍食品)、「外食向けの売上は回復したが、19年に比べると落ちている。市販用は20年から21年の特需ほどではないが、引き続き好調を維持。全社としては19年とほぼ同じ」(卸)。家庭用と業務用の両方で展開するメーカーや卸はそれぞれ浮き沈みがあったものの、全体的には横ばいとの答えが多かった。

資材メーカーからは「家庭用向け食品パッケージの需要は増えたが、材料の仕入れが不安定で人材不足もあり売上は横ばい」と原料の仕入れが不安定なため、需要増に対応できなかったもどかしさが伝わってくる。

一方、売上が「下がった」と答えたのは23%で、このうち4%が「10%以上の減少」だった。「外食業態の客足は完全に戻っておらず、主力の業務用の販売が減少」(調味料)、「料飲店市場の回復の遅れが要因」(酒類)、「カテゴリーや業態の構成が変化した」(業務用卸)など業務用の回復が遅れていることが一因となっている。「収益改善を図るため赤字商品のSKU削減などを大胆に進めた」(惣菜)という戦略的なものもあった。

小売業では「食料品は好調に推移した一方、衣料品と住居関連品の需要がコロナ禍で大幅に縮小」(小売)など、大型店を展開する企業では、食品以外の苦戦が要因となった。

原料高・コスト高による値上げの対応は? 9割近くがすでに実施 それでも追いつかない… - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)

原料高・コスト高による値上げの対応は? 9割近くがすでに実施 それでも追いつかない…

昨年1年間で値上げされた食品は2万品目を超えたと言われるが、2023年もこの流れは収まりそうにない。この質問に対しては「①すでに実施し今後も実施する予定」「②すでに実施し今後は未定」「③実施していないが今後する予定」「④実施せず今後もする予定はない」「⑤その他」の5つの選択肢を用意した。

まず、「すでに実施した」(①と②の合計)と答えたのが87%と全体の9割近くを占めた。このうち「①今後も実施する予定」が61%、「②今後は未定」が26%となった。

メーカーの声は次の通り。「すでに値上げをお願いしているがその間にもコストは上昇中」(砂糖)、「コスト施策は行うがさらなる価格改定を検討せざるを得ないと考えている」(製粉)、「値上げはしたが原価アップ分の総額に届いていない」(佃煮)。

「特に食用油の高騰による影響が大きく、22年に続き23年も値上げを実施する」(調味料)、「22年秋に値上げと容量変更を実施したが、それは春の原料アップによるもの。秋の原料アップ分は次年度以降になる」(乳業)、「急激なコスト上昇は想定をはるかに超えており、生産性改善などの企業努力で現行価格を維持することが極めて困難」(乾物)など値上げはしたものの、その後も続くコスト高に追いついていない現状が伝わってくる。

今後については「原料や飼料、エネルギー関係、円安などの外部環境による」(食肉)、「商品ごとに原材料高騰などの影響を試算し、今後の市場動向を見ながら検討」(調味料)、「値上げをせざるを得ないと考えるが、そのタイミングが重要」(海苔)、「一時的な値上げではなく、社会変化に対応できる構造改革を優先」(味噌)といった意見が挙がった。

卸売業からは「メーカーの値上げに対するスライド値上げは実行しているが、それにコストを乗せるのはなかなか難しい」「商品価格の値上げは実施しているが、販管費増加分の上乗せは難しい」など、商品価格に物流費などの上昇分を加えて転嫁する難しさを訴えつつ、「価格改定を浸透させる中で、商品の価値提案を一層強化する」「より丁寧な対応が必要になる」といった対応策も示された。

なお、④の「これまでもこれからも実施する予定はない」との回答はゼロだった。

SDGs・サステイナビリティ 食品ロス削減、物流の効率化 多様な取組み

コストや値上げ対策に追われながらも、年々強まるSDGsやサステナブル経営への認識に対し企業も様々な取り組みを進めている。特に業界と関係の深い食品ロス削減へ向けては、規格外原料の有効活用やフードバンクへの商品提供など、製造から販売までの各段階でそれぞれの対策を実施している。このほか、製・配・販三層での物流の最適化へ向けた協業も進んでいる。

◎「注力していること」主なコメント

【メーカー】

▽SDGs推進委員会を発足し、サステナビリティを推進する体制を整備(砂糖)
▽原料の栽培や養殖を行い、メーカーとして一次産業に参画している(調味料)
▽工場のスマート化による食品ロスの削減、プラスティックの使用を減らす包装資材の導入(調味料)
▽ヴィーガン向け、脱プラスティック向けの商品開発(製粉)
▽本社に太陽光発電パネルを設置、電力の値上げに対応できている(漬物)
▽プラントベースフードの積極的な開発(健康食品)
▽プラ包材を削減した商品や詰め替え商品を展開。さらにそれらの新商品をリリースする(海苔)
▽環境配慮型商品の開発・育成、調達・生産・物流工程の改善(酒類)
▽サステナビリティ委員会を設立し、目指す姿や具体的なアクションを推進。社会貢献や企業としての責務だけでなく、体質強化や企業価値の向上にもつながる(調味料)
▽賞味期限の集約化や延長に向けた商品開発により、フードロス削減や物流の手間を省く効果が表れている(即席麺)
▽生産時に排出する副産物を飼料として提供(菓子)
▽規格外原材料の活用や有機農業支援策の推進(佃煮)
▽国産米を100%使用し、調達におけるCO2を削減(菓子)
▽缶詰製品は保存性やリサイクル率が高く、フードロスの削減やリサイクル推進に寄与していることを引き続きアピールする(缶詰)

【流通】

▽特に流通業としてカーボンニュートラル、食品産業としてフードロスの問題に向き合う(卸)
▽発注量のコントロール、2024年問題を視野に入れた配送時間の短縮と効率化の推進(卸)
▽SDGsやサスティナブルに対応した商品が増えており、その中で市場に合った商品の提案を進める(業務用卸)
▽子ども食堂へのデザート寄付、NPO法人を通じた学生などへの援助(業務用卸)
▽地域の規格外の原料を活用し商品を開発する(卸)
▽ガスノンフロン冷媒を使用した冷蔵冷凍設備の導入、リサイクルの推進やフードドライブ活動の拡大など(小売)
▽フードバンク事業の強化(小売)

業績予想と重点課題 売上増見込むもコスト対策がカギに

最後に今年の業績予想と重点課題を問うた。業績に関しては価格改定へ適切な対応ができれば、売上は上昇するという見方が強い。ただ、3番目の質問「原料高・コスト高による値上げの対応は」で言及した通り、価格改定は実施したものの、継続するコスト高に追いつかない状況が続けば利益の確保は困難になる。その中で各社は課題解決へ取り組む。

◎主なコメント

【メーカー】

▽家庭用が引き続き堅調に推移し、業務用市場の回復もさらに進むと考え、5%超の売上増を見込む(冷凍食品)
▽大幅な需要回復が見込めない中、コスト負担がさらに大きくなっており非常に厳しい環境が続く。コスト削減を一つずつ積み上げ難局を乗り切る(砂糖)
▽価格改定により二ケタ前後の売上増が見込まれるものの、改定幅と時期のずれ込みにより厳しい採算になると見通す(乾物)
▽業績予想は厳しく、原料高を克服し利益体質へ進化することが課題(乳業)
▽新規事業への取り組みを加速。新しい市場の開拓と需要獲得が重点課題(調味料)
▽増収は見込めるが利益確保に苦慮する年となる。だが、新規開拓のための投資は積極的に行う(健康食品)
▽AI、IoT、ロボティクスの技術を活用した製品開発を踏まえ、店舗全体のソリューション提供体制の構築を図る(機械)
▽食費を節約しながらも、家庭での食事は贅沢に楽しみたいという層は確実に増えている。高品質な商品を積極的に訴求し売上拡大に努める(海苔)
▽売上はやや伸ばすことができるが、原料が予想以上の上げ幅で利益を確保することが困難な状況(乾物)
▽若干上回る予想。22年は価格改定で一時的に購買意欲の減少も見られたが秋冬以降回復しており、23年はインバウンド需要も見込めると考えている(即席麺)
▽既存事業と新たな事業の両方に取り組むことで、成長戦略のシナジーを起こす(調味料)

【流通】

▽売上は今期並みながら、利益はコスト増で減益の見込み。在庫管理の徹底と新規事業の開発が課題(卸)
▽ウイズコロナで消費者の生活が活発化することで、業績も伸びると考える(卸)
▽コロナ感染防止対策と経済活動の両立が浸透し、ある程度のインバウンド効果も見込まれる(業務用卸)
▽リアル店舗の店頭機能充実と、デジタルとの融合による利便性の向上を図る(小売)
▽電力高騰による経費増、円安による食品値上げが課題(小売)
▽人材育成による業績アップを目指す(小売)

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