チーズ 原価高騰に想定外の円安 2度の値上げも収益悪化続く コスト対応と需要喚起が課題に

2022年上期(4~9月)の家庭用チーズ市場は前年比96%程度で着地した。今期は原材料価格などの各種コスト増、為替の円安などの影響で、大手を中心に異例となる年度内2度の価格改定(容量変更含む)を実施した。需要の冷え込みが懸念されたものの、内食傾向が続くなかで各社の食べ方やメニュー提案など継続的な消費喚起もあり、広がった間口と奥行は一定程度維持され、大幅な落ち込みには至らなかった。2023年も先行き不透明な状況は続く見通し。数ある食品の中から消費者に「チーズ」を選んでもらうための多面的な価値訴求が一層の課題となる。

2020年のチーズ市場は、コロナ禍による内食需要増加の影響で前年比7%増と大きく伸長した。翌21年もコロナ特需の反動減に見舞われたが、コロナ前と比較すると市場は堅調を維持した。

ところが、22年に入るや状況は一変。輸入原料チーズの急騰、包装・資材、原油価格高騰による物流費やエネルギーコスト上昇などを受け、NB主要メーカーが1回目の値上げを実施した。値上げの影響は大きく、各社の第1四半期売上高に大きな影響を与え、市場への影響も懸念される事態となった。

1度目の値上げで十分なコスト吸収ができないなか、原材料価格の高騰をはじめとするコスト増は続き、「想定外」(メーカー)とされる為替の円安が追い打ちをかけたことで、収益確保、事業継続を目的に2度目の価格改定に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれた。

年内2度という価格改定の影響が懸念されたが、足元の状況について主要メーカーからは「想定していたほど悪くない」「1回目値上げの時ほどの影響はない」という声が聞かれ、懸念された「チーズ離れ」という事態も回避されているようだ。

一方、「価格改定で売上は伸びたが、利益は厳しい」(メーカー)というように、収益確保という点は大きな課題だ。12月に入り為替の円安は落ち着いてきたが、23年も原材料価格の高騰は続く見通し。先々加工用乳価が引き上げられた場合、国産チーズを含めたさらなる価格改定は不可避と見られ、メーカーは「消費者にとって価格は大きな選択の基準。危機感を持っている」と警戒感を示す。

これまで様々な食べ方提案や健康、体験価値の訴求を行ってきたメーカー各社だが、22年の厳しいコスト高を受け、23年はこれまで以上に消費者に「選ばれる」価値提案を加速させる構えだ。

モッツァレラやカマンベールなど、プロセスチーズ(PC)に比べ価格に左右されにくい国産ナチュラルチーズ(NC)は、輸入NCとの価格差が縮まったことで間口が広がっていることから、「国産」が想起される安心感やおいしさ、調理方法によって変化するチーズならではの体験価値など様々な面を打ち出すことで、消費を喚起していく。

コロナ禍で続く健康ニーズに向けても、チーズがタンパク質やカルシウムを豊富に含む食品であることを店頭や広告で訴求するとともに、家族と一緒に楽しめる企画などを通し「おいしい」だけではない、健康価値の認知拡大も図る。

一方、コロナ禍で伸びた大容量タイプに加え、1~2人世帯向けの小容量タイプのニーズの高まりも見られている。定番商品の価値訴求に加え、新たな消費者ニーズに対応した商品ラインアップ強化に向け流通へも積極的に提案していく。

 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)