アサヒ飲料は自販機で回収されたペットボトル(PET)を対象に使用済みPETを再びPETにするボトルtoボトルの水平リサイクルを開始する。
ボトルtoボトルは、新たな石油由来原料の使用と原油の運搬を不要とするためCO2排出削減効果が見込まれ飲料業界一丸となって推進されている取り組みだが、推進の要となるメカニカルリサイクルと呼ばれる手法では不純物のない良質な使用済みPETが求められることから、その啓発が課題となっている。
メカニカルリサイクルの対象となるのは、主に自治体(市町村)ルートなどで回収される良質な使用済みPETで、自販機のリサイクルボックスなど事業系ルートから時に異物とともに回収される品質劣化した使用済みPETは対象外となっている。
この事業系ルートなどが障壁となり、国内リサイクルのボトルtoボトル比率は3割にとどまる(PETボトルリサイクル推進協議会調べ)。
アサヒ飲料の今回の取り組みはボトルtoボトルの障壁にメスを入れ、メカニカルリサイクルでは対応が難しいとされる事業系ルートを補うものとなる。
5月中旬から、グループ会社のアサヒ飲料販売が直販する首都圏エリア約3万台の自販機で回収される約2000tの使用済みPETを対象に水平リサイクルを開始する。
これに協力するのが、日本環境設計の子会社・ペットリファインテクノロジー社(神奈川県川崎市)。世界で唯一商業運転するボトルtoボトル向けのケミカルリサイクル工場となる。
ケミカルリサイクルは、化学的再生法と呼ばれ使用済みPETをPET樹脂の分子レベルまで分解するため不純物の除去能力が高く、異物とともに回収される品質劣化したPETにも対応する。
10日開催された説明会でアサヒ飲料の米女太一社長は「水平リサイクル率を上げていくことに加えて我々が啓発活動することできれいな状態でPETをリサイクルボックスに入れていただく。(今回の取り組みは)リサイクルモデル全体に対して大きな影響が与えられる1つのきっかけになる」と語る。
今回の自販機を起点とした水平リサイクルは主に以下の流れで進められる。
(1)アサヒ飲料販売が直販の自販機リサイクルボックスから回収した飲料空容器を中間処理業者が容器別に分別しPETをフレーク(薄片)化する
(2)ペットリファインテクノロジー社が中間処理業者からフレーク化したPETを受け入れリサイクルPET原料(PET樹脂・ペレット)に再生してアサヒ飲料に引き渡す。
(3)アサヒ飲料はこのリサイクルPET原料を使い「三ツ矢」「カルピス」「十六茶」「おいしい水」「バヤリース」の一部の大型PETに再利用する。
物流などの観点から工場近隣の首都圏でスタートし年内をめどにグループ(アサヒ飲料販売・九州アサヒ飲料販売・ミチノク・アサヒオリオン飲料)で管理する約7万台の自販機で回収される約4600tのPETを再利用する。
ペットリファインテクノロジー社のリサイクルPET原料の年間生産能力は2万2000t。1日約70tを製造し年間約320日の操業で算出されたものでアサヒ飲料分はこの中に含まれる。
同工場の一番の差別化ポイントについて、日本環境設計の高尾正樹社長は「商用運転を既に実現している点が非常に大きい」と述べる。
またメカニカルリサイクルとの比較については「一長一短で、我々の一番の特徴は不純物の除去能力が高いところ。一方、エネルギーはメカニカルと比べて多く使用するが、CO2排出量は(バージン原料使用に比べ)47%の削減効果がある」と説明する。
メカニカルリサイクルは物理的再生法と呼ばれ、使用済みペットを選別・粉砕したフレークをアルカリ洗浄し高温・真空下にさらして樹脂に染み込んだ汚染物質を吸い出す手法となる。
これに対し、ペットリファインテクノロジー社では、ラベルやキャップ、缶、瓶、タバコの吸い殻、土砂などの不純物が混ざったフレークを受け入れ、フレークを化学的に分子レベルへ解重合(分解)しPET原料の化学物質に戻して再び重合する。
解重合のイメージについて、ペットリファインテクノロジー社の伊賀大悟社長は「不純物がひっかかっている分子の輪を解重合でほどいていくイメージ。ほどかれて沈殿した白い部分がBHETというモノマー(単量体)になりPETを製造する際の中間原料となる」と語る。
解重合の後、脱色・金属イオン除去・晶析を経て純度の高い精製BHETに仕上げていく。次に再び加熱して重合しリサイクルPET原料を製造していく。
フレークの解重合からリサイクルPET原料製造までに要する日数は3日間。フレークの保管能力は最大約4000t。
アサヒ飲料はこのほどリサイクル PET・環境配慮素材の使用に関する目標を上方修正し、PETについては2030年までに全量を環境配慮素材に切り替えることとした。
今回、大型PET年間生産量の約40%に再生PET樹脂を使用することで、ボトルに使用するCO2排出量は従来比で約47%削減され、年間で約1万8400tのCO2が削減される見込みとなる。