鹿児島県・徳之島でコーヒー生産による産業化の実現を目指して――。
このビジョンをもとに、17年夏に伊仙町、徳之島コーヒー生産者会、味の素AGF社、丸紅の4者が契約締結して始動した徳之島コーヒー生産支援プロジェクトに、コロナ禍の壁が立ちはだかっている。
感染拡大防止の観点からAGFや丸紅の現地訪問が難しくなり、新しい活動や支援のあり方などの見直しが迫られている。
こうした中、この逆風に挑み「徳之島コーヒー生産者会の皆さんとともに徳之島コーヒーの商品化を実現するのが当面の目的。そのためには収量を増やす支援を一層強化する必要がある」と意欲をのぞかせるのは、AGFの臼井孝允生産統轄部生産企画グループ主任。
臼井主任は、AGFで原料調達のスキームづくりに携わり、昨秋から同プロジェクトを担当し、伊仙町や生産者会とオンラインを活用し定期的なミーティングで支援の方向性を模索している。
17年のプロジェクト発足時に掲げた数値目標は、2022年までに生豆ベースで収穫量1t(1000kg)。
この目標達成に向けてドライブをかけていくため、徳之島コーヒー生産者会全体で栽培技術の水準を引き上げていくことに注力していく。
「プロジェクト当初から携わった方々は自分の土地にあった栽培方法を見出されているが、他の生産者会の皆さんにもそれぞれの土壌の特徴にあった肥料の使用方法などをしっかりお伝えして栽培方法を浸透させていくことが必要」と語る。
コロナ禍で支援の仕方を模索する中、目標の実現に向けてAGFがさらに働きかけようとしているのがコーヒー栽培方法の検証とAGF実証農場の活用だ。
防風・遮光の対策や、保水材の検証結果を導入し、1本あたりの収量を増やす質の向上、栽培技術の確立を目指す。
「栽培方法の検証結果から、森の中や谷間といった特殊な場所ではなく、徳之島に多くあるサトウキビ畑のような平坦な土地での生産実績を我々でつくることができれば、技術を栽培に生かせる生産者の方々が増えていくのでは」との見方を示す。
今後は、現在3か所あるAGF実証農場で、台風にも耐えうる設備も活用し、土壌改良などに取り組み収量アップを図っていく。
生産者の高齢化や人手不足といった課題に対しては、まずは島内での連携強化を促していく。
既に徳之島の障害者施設や就労継続支援センターから定期的な育苗作業の協力が得られているほか、21年10月には生産者会と徳之島高校の生徒が協力して3つ目のAGF実証農場で苗植えを実施し「現地の方々が参加するプロジェクトとして定着してきている」という。
昨年12月にはAGFの竹内秀樹社長が現地訪問し「生産者会や関連団体の皆さんと栽培方法の検証結果や苗植え作業の進捗状況を共有した」。
進捗状況を踏まえ今後支援を強化していく構えだが、「我々はあくまで支援という裏方のポジションで、主役は徳之島の方たち。島の方にコーヒー生産を自分たちの産業と思って我々の産業だと主体的にやっていただく姿を思い描いている」。
この考えのもと、今後は丸紅や専門家とともに各農家を訪問し生産者とのコミュニケーションの上で、土壌分析の支援などを予定している。
臼井主任は、大学では農業を専攻し、アミノ酸発酵液肥を研究のテーマにしていた。「農作物を扱った前職の経験も活かしていきたい」と述べる。
これまでのトライ&エラーも糧にしていく。
「プロジェクト開始から今までの支援活動の中で得た知見と、生産者会の皆様とのコミュニケーションで今後の対策がより鮮明になってきた。皆様の中には、コーヒーの可能性に魅力を感じ始めたという方がいる。そして今後の若い方たちのためにコーヒーを島の魅力ある産業として盛り上げ育てて行きたいという皆様の共通の想いがある。その想いを乗せたコーヒーを徳之島での産業に育てるため支援を継続していきたい」と意を固める。