味の素ファンデーション 被災地復興応援事業マネージャー 原裕樹氏に聞く
…味の素ファンデーションの事業概要を教えて下さい。
原 味の素ファンデーションは味の素が2017年に設立しました。もともと味の素が社内でCSR的な活動を行っていたが、官民連携の活動をするため公益財団法人にしました。4つの事業があり、そのうち3つが海外事業で、唯一の国内事業が「食の力による防災支援・復興支援事業、ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」です。国内でのスタートは2011年の東日本大震災での「いっしょに作っていっしょに食べる」をコンセプトにした参加型の料理教室で、2020年までの8年半料理教室を続けました。

福島、岩手、宮城で2人1組のスタッフが現地に住み、組み立て式調理台が完備されたトラックで県内を回りながら料理教室を3000回以上開きました。料理教室は地域パートナー(行政栄養士、食生活改善推進員、社会福祉協議会、NPO、生協)と組んで実施しました。
そして20年でスタッフ直接派遣型の料理教室は終了。その後、仙台在住のOBが、それまでのノウハウを伝授しながら後方支援をしています。その時に支援ツールとしてまとめたのが「ありがとうレシピ集」で、簡単にできて、どこでも手に入るような食材を使った、仮設住宅でも作れるレシピ集を作成。能登の被災地にも配って活用してもらっています。
東北の8年半では「食べること」の価値として、体の栄養だけではなく、心の栄養、人と人の繋がりなど様々な価値があることを学びました。しかし災害が起こると食の問題は後回しになってしまいます。避難場所で支給されるものは菓子パンやおにぎり、カップ麺など炭水化物ばかりで、災害関連死のリスクにつながりかねません。我々は、これを「炭水化物まみれ問題」と呼んでいます。そこで「食べる支援(たべぷろ)」チームを組んで活動。国立栄養情報センター、日本栄養士会、ボランティア団体、ピースボート災害支援センター、味の素ファンデーションが世話役メンバーになり、食品メーカーからも伊藤園、森永乳業もチームに入ってもらっています。
味の素ファンデーションとしては「食べる支援(たべぷろ)」の一員として「食の防災」をテーマに行政主催の研修会や民間の防災イベント等で講演会やワークショップを行っています。
…能登半島地震での被災地支援活動を教えて下さい。
原 現地の災害NGO「結」(yui)さんとつながりましたが、「能登は食が悲惨な状況になっている」と助けを求められました。そこで七尾の廃校になった小学校の体育館を確保してもらい、「たべぷろ」として食品メーカーとのつながりの中で、行政の支援物資とは別の民間ルートでの支援物資の協力を求めました。
現地では、指定の避難所に物資が届かず、届く物資も「炭水化物まみれ問題」がおこっており、栄養の改善につながるようなたんぱく質や食物繊維、ビタミン、カルシウムなどに絞って、各社にお願いしました。味の素のスープや伊藤園の野菜ジュース。高齢者はたんぱく質不足による筋力低下が懸念されるので、日本ハムのレトルトハンバーグ。森永乳業の常温保存が可能な牛乳や豆腐なども喜ばれ、豆腐は炊き出し用の豚汁として使われました。心の栄養も大事であり、プラスチックの引き出しから取り出せるようにセットされた味の素AGFのスティックドリンクも評判でした。
「栄養啓発」活動の一環として、「ありがとうレシピレシピ集」は様々なところに無償で配布しています。ライフラインが止まり、テレビや娯楽もないため、皆さんでレシピ集を見ながら料理を楽しんでもらっています。
当初の連携先は災害NGO「結」さんだったが、2月、3月には物流も回復し、届け先が北に移ったので、レスキューストックヤードさん、日本サスティナブル・レストラン協会さんなど徐々に拡大。その結果、食糧支援物資(炭水化物以外)は2、3か月で約13万食になりました。行政ルートの支援物資は300万食あったが、3分の2が炭水化物で、炭水化物以外はおよそ100万食とみられ、我々の食糧支援物資もある程度の量を届けることができたと思います。また2、3月になると仮設住宅の中で眠れない人が目立つようになり、味の素のサプリメント「グリナ」を提供しました。
…現在の活動は。
原 復旧・復興のフェーズを見据え、水道の復旧と仮設住宅への入居が進んできたタイミング(7月以降)で地域コミュニティ再生への後方支援ができないか検討を開始します。提案内容は大きく分けて4つです。

①料理教室の研修会(料理教室を地元で行う団体があれば、そこに料理教室の運営ノウハウをパッケージで教えること)
②調理器具の寄付
③サロン等を継続される場へ「AGFスティックドリンクバー」の協賛の繋ぎ
④栄養バランス改善を啓発する情報ツールの提供(ありがとうレシピ集、どんなときもレシピ、栄養バランスチェックシート)
などです。
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