中国でコスパ最強の日本酒が大ヒット。その名は「銀の雫」シリーズ。プロデュースするのは日本商品の越境ECを手がけるInagoraホールディングス(インアゴーラ)で、第1弾商品は「本紀土」で知られる和歌山・平和酒造が製造。インアゴーラが得意とするショート動画とEC機能を組み合わせたライブコマースで認知度を高め人気商材への足掛かりを築いた。25年は高級スーパーなどリアル店舗への本格進出も決まり、通年で約30万本(1.8ℓ瓶+720㎖瓶合計)と大幅増を見込む。
シェア4%に急上昇
「銀の雫」は23年5月に販売開始。出荷数は24年2月で約1500本だったが、5月に約7600本、10月に約1万1500本に急上昇。特に12月は約2万5000本を突破する見通しで、この数字は単月ながら対中国向け日本酒輸出量トータルのシェア約4%に相当する(財務省貿易統計より同社推計)。シリーズで24年の出荷規模は約9万本、約600万元(1元は約21円)の見込み。
中国は景気減速と日本産水産物の輸入停止で日本酒の需要もダウントレンドにあるが、「銀の雫」はコストパフォーマンスの高さで新しいユーザー層を開拓したことがヒットの要因となった。
第1弾の「純米酒」(製造・平和酒造)は精米歩合を75%に抑えつつも地酒のおいしさをしっかりと表現し、価格は1.8ℓ瓶で148元、720㎖瓶で79元に設定。これは同種の地酒製品に比べて半値以下だという。キャンペーン時には1.8ℓ瓶を99元で売り出し大きな反響を得た。
加えて、ラベルにはアルファベットを使うなどあえて日本酒らしくないニュートラルなデザインを採用したことも特徴。
ECにおけるライブコマースでは、商品のスペックよりも海鮮料理と相性が良いことをメーンに訴求した。
中国版TikTokの「Douyin(ドウイン)」では多数のフォロワーを抱える「Key Opinion Leader」(KOL)を複数起用、認知の拡大を図った。一連の施策が奏功し、「天猫(Tmall)」「京東(JD.com)」など主要なECチャネルでは日本酒部門の売上2位に急浮上。好調な売れ行きを受け、25年からはアリババ系など複数の有力スーパーで販売がスタートする。
取材に応じた翁永飆(オウ・エイヒョウ)CEOは「これまでの日本酒は購入者の年齢層が高めだったが、『銀の雫』は若年層の購入比率が高い」と説明。かねてより長期的な視点で中国における日本酒市場の拡大を志向しており、「手軽な価格帯の新商品でユーザーのすそ野を広げられた」と手応えを話す。
「中国で日本酒の新たな入り口に」翁CEO
「銀の雫」のラインアップは、第1弾商品に続き、24年6月に王道のラベルでワンランク上の純米酒(製造・日本盛)も上市。そして、25年1月に純米酒ベースの「柚子酒」(製造・花の舞酒造)を新発売する。女性をメーンターゲットとし「銀の雫」ブランドの認知拡大も図っていく。
今後の方針について、翁CEOは「中国における日本酒の新たな入り口を作れた手応えを感じている。一品ずつていねいに販売し、リーズナブルでおいしいブランドとして定着させたい」と展望する。