飲料で唯一“ポン”と開栓音がする「シャンメリー」  先人が築き上げた密栓密封技術にワクワク感や愛情表現の独自価値

清涼飲料水で唯一“ポン”と開栓音がする炭酸飲料「シャンメリー」。

その開栓音は、ソフトシャンパン(ノンアルコール飲料)が東京で製造開始された1947年ごろから、関係省庁との折衝や改善を経て先人が築き上げた密栓密封技術によるもの。

全国シャンメリー協同組合の翠田章男理事長(トンボ飲料社長)は10月10日、清飲記者会研修会の取材に応じ、飲料で唯一無二となる開栓音にワクワク感・ドキドキ感の創出や愛情表現といった独自価値を見出す。

全国シャンメリー協同組合の翠田章男理事長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
全国シャンメリー協同組合の翠田章男理事長

「“ポン”の開栓音はシャンメリーでしか経験できない価値。これを我々は大切な宝物と認識しており、今後も訴求していきたい」と意欲をのぞかせる。

飲用シーンは、クリスマスを定番とし、それ以外の誕生日会や入園・入学・卒業祝いなどの乾杯のシーンでも需要深耕余地を見込む。新たな販路も探索中という。

シャンメリーは家族が子供に愛情を伝えるツールとしても好適と指摘する。

全国シャンメリー協同組合は2005年、児童養護施設へのシャンメリー贈呈事業を開始。初年度は50施設に贈呈し、2008年には、抽選制から申込み施設全てに贈呈する方針に改め贈呈先を423施設へと拡大した。

児童養護施設から寄せられる多くの感謝状 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
児童養護施設から寄せられる多くの感謝状

直近の2023年には602施設に案内を送付し希望する559施設に贈呈した。

「シャンメリーは、ただ喉を潤す飲料ではなく、シャンメリーならではの付加価値というものがある。それは親御さんやおじいちゃん、おばあちゃんが子どもや孫に注ぐ愛情のようなものだったりする。それだけに児童養護施設の子どもたちにも、ぜひ飲んでもらいたい」と語る。

贈呈の準備はシャンメリーの繁忙期と重なるため、会員企業であるトンボ飲料の社員は重労働となる傾向にある。

そうした中、児童養護施設から寄せられる多くの感謝状が社員のモチベーションになっているという。

「社員の励みにもなるほか、販売していただくお店の方やバイヤーさまなどにもご理解いただけるよう贈呈事業を説明させていただいている。組合で行っている事業ではあるが、当社としても非常に積極的に贈呈事業に関わっていこうと考えている」と意欲をのぞかせる。

開栓を実演するトンボ飲料の社員。思わず笑顔がこぼれる。 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
開栓を実演するトンボ飲料の社員。思わず笑顔がこぼれる。

 シャンメリーは、全国シャンメリー協同組合の登録商標で組合に加盟する全国の中小企業が製造する炭酸飲料。

 ラムネ・瓶詰コーヒー飲料・瓶詰クリームソーダ・ポリエチレン詰め清涼飲料・焼酎割り用飲料とともに、中小清涼飲料製造企業特有の生産分野と宣言されている。

 同宣言は1977年に施行された分野調整法に基づくもので、大手企業が宣言に抵触しないように業界内で周知徹底が図られている。

 360mlガラス瓶と“ポン”という開栓音のするキャップが特徴で子ども用のイメージが強いが、世代を超えて家族で楽しめるノンアルコール飲料としても適している。

“ポン”の開栓音はシャンメリーでしか経験できない価値 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
“ポン”の開栓音はシャンメリーでしか経験できない価値

 シャンメリーの原型の誕生は1947年にさかのぼる。戦後間もない東京で進駐軍が楽しげに飲むシャンパンをヒントに、東京の飲料会社がソフトシャンパン(ノンアルコール飲料)の製造を開始したのがはじまりと言われている。

 以降、1977年までの30年間にわたり、各関係省庁との折衝を経てシャンメリーの原型がつくられていく。

 「技術的課題については厚生労働省(当時:東京都衛生局)と経済産業省(当時:通産省)、商標の権利化については農林水産省、名称については外務省、分野調整法については経済産業省と非常に多くのお役所からご指導を受け改善してきた歴史があり、先人たちのご苦労が偲ばれる」と敬意を払う。

 技術的には1964年、東京都衛生局から当時のソフトシャンパンの密栓密封について改善を指導され、1969年、通産省による瞬間耐圧試験、持続耐圧試験に合格して密栓密封問題が解決する。

 名称については、当時、お酒ではないシャンパンとしてソフトシャンパンと呼ばれていたが、フランス政府から「シャンパン」の名称の使用禁止を求める動きが起こったため、それに替わる名称として1972年に「シャンパン」の「シャン」と「メリークリスマス」の「メリー」を合わせてシャンメリーが考え出された。

 シャンメリーがスーパーに売られクリスマスの定番になったのは1966年。トンボ飲料の翠田康志氏(当時・社長)が開栓時の“ポン”という賑やかな音や炭酸のきらびやかなイメージはホームパーティにも適していると大手スーパーに提案したことが契機になったとされる。

 それまでシャンメリー(当時ソフトシャンパン)は、夜の歓楽街の料飲店が販路で大人向けのソフトドリンクやお土産物として販売されていた。

 全国シャンメリー協同組合アンケート回答積上げ値によると、2023年のシャンメリーの販売本数は555万本と推計。

 2018年から2023年までの6年間の販売本数は、年間600万本前後で推移。

 「以前は年間1000万本以上販売していた時代が長かったと聞いているが、近年は残念ながら少子化に伴って600万本から500万本のところを推移している。2020年と2021年はコロナ禍でホームパーティが盛んになったことから2年連続で前年をクリアした」と振り返る。

 その上で「心のきずなが大切だとされる今だからこそ、クリスマス以外のシーンにおいてもシャンメリーの出番だ」と強調する。

 需要拡大に加えて収益改善もシャンメリー業界の課題となる。

 近年、資材や原材料のサプライヤーからの値上げラッシュに対して、製品に価格転嫁しにくく板挟みになっている。
 資材・原材料の高騰に加えて、瓶容器はサプライヤーの工場閉鎖などが尾を引き入手困難な状況が続き、人手不足も深刻化している。