官民連携で世界の小規模生産者を支援するプロジェクト発足 タンザニアのコーヒーで始動 IFAD・農水省・UCC・丸紅が協働

 官民連携で世界の小規模生産者を支援するプロジェクトがタンザニアのコーヒーで始動した。

 国連の専門機関である国際農業開発基金(IFAD: イファッド)・農林水産省・UCC上島珈琲・丸紅の4者が協働してプロジェクトが発足された。

 同プロジェクトは、タンザニアのコーヒー小規模生産者が持続的に生産量を増やすことを支援するもの。

 G7宮崎農業大臣会合の議長国として農水省が立ち上げた「民間セクター・小規模生産者連携強化(ELPS:エルプス)」イニシアティブの一部として発足した第一号案件となる。

 IFADによると、世界の食糧生産の3分の1を生産している小規模生産者は、依然として貧困と飢えに苦しみ、異常気象や価格変動などの外的影響を受けやすく、国際市場や融資へのアクセスの確保に苦労しているという。

 農業の生産性・持続可能性の向上と小規模生産者の増収に向けたELPSの第一号案件として、タンザニアの小規模コーヒー生産者に白羽の矢が立てられた。

 タンザニアは、日本で馴染みのあるキリマンジャロを代表とした世界有数の優れたコーヒー豆を生産しているが、近年は単位面積当たりの収穫量低下が課題となっている。

 タンザニアのコーヒー生産者のうち約9割が小規模生産者(40万人以上)で占められている。

オンライン参加のIFADのジェラルディン・ムケシマナ副総裁を囲む(左から)米田立子氏、今西靖治氏、大矢秀史氏、リック・ヴァン・デル・カンプ氏、高橋光男氏、朝田文彦氏、バラカ・ハラン・ルヴァンダ氏、農水省の窪田修氏 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
オンライン参加のIFADのジェラルディン・ムケシマナ副総裁を囲む(左から)米田立子氏、今西靖治氏、大矢秀史氏、リック・ヴァン・デル・カンプ氏、高橋光男氏、朝田文彦氏、バラカ・ハラン・ルヴァンダ氏、農水省の窪田修氏

 9月20日開催された「持続可能なコーヒー生産プロジェクト」発表会でオンライン参加したIFADのジェラルディン・ムケシマナ副総裁は「タンザニアの小規模コーヒー生産者の生産性を協働で高め国際市場へのアクセスを拡大することで生産者の生活を改善していくことができる」との青写真を描く。

 プロジェクトでは、タンザニア南西部に点在する9つの「AMCOS(アムコス)」と呼ばれる生産者組合(生産者約1300人以上)を対象に、約46万ドル(約6600万円)の予算を投じて支援活動を実施し生産量を倍増させる。支援期間は3年間。

 UCC上島珈琲の朝田文彦社長は「生産量が増えれば安定供給につながり、小規模生産者の収入が増加し、さらには品質も向上する。我々民間企業だけでは達成できなかったことを官民連携で達成できると期待している」と語る。

 3年間の支援で基盤を整え、生産者の自律よる水平展開を促していく。

 丸紅の大矢秀史執行役員食料第一本部長は「まず生産量と収入の増加を成果として出していくことが重要。今回の取り組みでいろいろな成功事例や経験が出てくるはずで、これらを他の国やタンザニアの他の地域でも展開していく」と述べる。

 UCCグループは8月、「森林破壊ゼロ宣言」を制定。これに基づき、UCC戦略的生産国の1つであるタンザニアでは、新たに土地を切り拓くことはせず、既存の生産エリアでの収量アップを図っていく。

UCC上島珈琲の中平尚己農事調査室室長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
UCC上島珈琲の中平尚己農事調査室室長

 UCC上島珈琲の中平尚己農事調査室室長は「いたずらにインフラを提供するというのではなく、プロジェクト終了後も、生産者に負荷が過剰にかからず持続可能な生産ができるような農法を提供・推奨していくことを目的としている」と力を込める。

 収量アップの主な方策は、苗木とシェードツリーの提供となる。
 シェードツリーはタンザニアでも進む地球温暖化対策として導入を進めていく。コーヒーノキの密度改善や剪定などのノウハウも提供する。

 生産量倍増のイメージについては「苗木を植えて3年後に収穫が始まるため、実際の成果としては3年後に生産量2倍、3倍というところが見通せる」と説明する。

 当面は生産量を追求し、生産量が増えた段階で品質アップに取り組む。

アフリカンベッド - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
アフリカンベッド

 基盤整備に向けた支援金の使用用途は主に以下の通り。
 ――苗床(ナーサリー)の建築
 ――種と苗木の購入
 ――堆肥の購入
 ――堆肥の集積場所やロジスティックスの構築
 ――アフリカンベッド(乾燥場所)の構築

 コーヒーノキの生産年数は25~30年。生産年数を経過したものを、種と苗木の両方で植え替えしていく。育苗のためのトレーニングも実施する。
 堆肥は現地にある有機材料も活用してコスト削減を図る。

 生産者との関わりについてはIFADに期待を寄せる。

 IFADは、小規模生産者や小規模農村地域のみに投資を行う唯一の国際金融機関となり、各地のコミュニティと良好な関係を構築している。

 「UCCも独自に産地や農家の方とのパイプを持つが、地域を面でコネクションを深めていくのはなかなか難しかったことから、今回のプロジェクトは非常に貴重」とみている。

 丸紅は主に現地の資源調査や進捗管理を担う。加えて「現地の生産者に留まらず輸出業者とのコネクションが物凄く深いことから、我々(UCC)にとっても非常に大きな力になる」と期待する。

 タンザニア政府も動き出す。

 タンザニア連合共和国駐日特命全権大使のバラカ・ハラン・ルヴァンダ閣下は「タンザニア政府はコーヒーを戦略的作物に指定している。間接的に240万人がコーヒーのバリューチェーンに関わり雇用を創出し我が国のGDPに大きく貢献している。政府は様々な対策をとって環境に適した生産を実施しようとしている」と述べる。

 対策の一例に、デジタル化による許認可申請の効率化・簡便化、手数料の引き下げ、投資家へのインセンティブの提供などを挙げる。

 農水省はこれまでELPSイニシアティブの実施を目的に累計3.4億円をIFADに拠出。

 農林水産大臣政務官の高橋光男氏は「ELPSを開始することでこれまでの貢献が新たな地平を開くことを期待している」とコメントする。

 外務省国際協力局参事官の今西靖治氏は「タンザニアにおける持続可能な農業が出現することを期待するとともに、日本とタンザニアの関係が一層強化されることを望んでいる」と語る。

 ELPSは農水省と企業との会話から生まれたアイデアという。

 「人権の配慮や小規模生産者支援にいかに貢献しているかということが、モノの価値にも影響し、企業価値にもつながるためグローバルの商流ではもはや不可別、というのが企業の皆様との会話の中で得た認識」と振り返るのは農林水産省国際戦略グループ長の米田立子氏。

 IFADはELPSの実施機関となる。

 「企業のニーズとしては、生産現場の上流への関わりを深めるには現地コミュニティや地域の要人とのネットワークが必要となるがビジネスリスクを伴う。一方、途上国の産地のニーズとしては生産力と付加価値を向上させたい。この双方のニーズは呼応関係にあり、IFADが仲介することで満たすことができればウィンウィンの関係が築けると考えたのが、今回の立ち上げの元々の趣旨」と説明する。

 IFADマーケット&バリューチェーンスペシャリストのリック・ヴァン・デル・カンプ氏は、ELPS立ち上げの経緯について「2023年の初めに、農水省と骨格づくりを行い、かなり早い段階でUCCと議論した。UCCの皆さんには大変関心を持っていただき、協力できることについて話し合った後、丸紅に入っていただいた」と述べる。