日本酒の一升瓶に欠かせない王冠。中栓の天面には銘柄が印刷・刻印され、コレクターも少なくない。近年は開封性・密封性・デザイン性に優れた新タイプも充実し、720㎖瓶での採用も増えている。そのリーディングカンパニーは大阪市に本社を置く、きた産業。全国約750社の清酒メーカーと取り引きし、一升瓶向けキャップのシェアは圧倒的1位の座にある。
喜多郁森専務は「他社が簡単には真似できない多品種小ロットの供給体制が強み。非効率かもしれないが、どんな小さなオーダーにも応えるようにしている」と企業姿勢を話す。
年間生産2.5億個、「白鶴」「十四代」も
まさに縁の下の力持ちだ。祖業は1916年に始めたコルク商だが、全国津々浦々に出荷先を広げており、キャップの年間生産数は約2・5億個(日本酒以外含む)に達する。かねてより品質保証と安定供給に定評があり、業界内での信頼は厚い。
「白鶴」「松竹梅」「月桂冠」などの大手に加え、地酒どころ新潟の「久保田」「菊水」「八海山」「吉乃川」など、そして日本酒ファンの誰もが一目置く「十四代」「而今」「新政」などの人気銘柄まで、名だたる清酒メーカーと長年にわたり取り引きする。
喜多専務は「競合企業は10社に満たず、新規参入もほぼない。素晴らしいお酒を造っているのはあくまで取引先メーカー。われわれが自慢できることは特にない」と謙遜するが、「製品改良で顧客から相談を受けることは多い」と打ち明ける。
そうしたニーズに応えるべく、新商品は積極的に開発してきた。なかでも約10年前から外栓が樹脂タイプの王冠に注力。アルミ製に比べ開栓時の安全性が向上したほか、デザイン性も優れていることから、高級酒や輸出向けの製品で引き合いが多いという。主に第1弾の「AZK」、中栓に厚みを持たせた「JZK」、栓の外径を大きくした「MZK」の3タイプを展開する。
増収増益、商社機能にも注力
一方、国内アルコール市場が伸び悩む中にあって、同社は増収増益が続く(23年9月期=売上高68.51億円、前年比約11%増、純利益2.46億円、同約68%増)。
原動力は国内外にネットワークを持つガラス瓶・アルミ缶・紙製品などの企画・販売、びん・缶詰め機械の仕入・販売、ワイン・ビール醸造設備の輸入・販売などの商社機能だ。
1990年代から多角化の一環でクラフトビール、ワイン、ウイスキーなどの市場にも取り引き先を求め、現在の成長を支える礎となった。業界における長年の実績と信頼を強みに、国内外のパッケージメーカーと酒類メーカーを仲介する貴重な役割を担っている。
また、きた産業の代名詞とも言える存在が冊子「酒うつわ研究」だ。20年以上にわたり喜多常夫社長が編集・発行に携わり、自社製品の紹介のみならず、業界のトレンド情報や豆知識など、読み物としてもクオリティが高い。「グローバルかつアカデミックにお酒の業界に貢献していきたい」(喜多専務)との想いが込められている。