近年、乳酸菌飲料をはじめ多様な健康食品もあって、踊り場の状況が続くヨーグルト市場。成長路線回帰に向けて「情緒的価値の発信が重要」と語るのは、一般社団法人ヨグネット代表理事の向井智香氏だ。6月10日、一般社団法人日本乳業協会主催の第1回「ミルクの未来を考える会」が乳業会館で実施された。
開催に先立ち宮崎淑夫専務理事は「発酵乳生産量は健康需要を背景に伸長し2020年に過去最高となったが、ここ数年は乳製品価格の上昇、物価高騰による購買意欲低下などを背景に3年間で約15%減少。発酵乳製造の際に使用される脱脂粉乳、脱脂濃縮乳の使用も急激に減少した結果、脱脂粉乳の在庫量は10万tを超え、このままいくと消費期限が切れてしまうものが発生する」など課題点を示し、講演がヨーグルトの魅力発信につながることを期待した。
向井氏は、日本のヨーグルトに対する表現のボキャブラリーの少なさを指摘する。よく使われる「濃厚さ」以外にも、酸味の深さやミルクの甘み、テクスチャーなどで豊かに表現できると説明。自身が出版した本ではこうした特性を製品ごとに細かく表現した結果、「いつものヨーグルトの価値が上がって感じられた」などの反響が寄せられ、人々のヨーグルトに対する味覚の解像度を上げる重要性を認識したという。
ヨーグルトの規格定義の曖昧さも指摘する。
日本ではヨーグルトの法的定義がなく、無脂乳固形分が低いなど、正式には発酵乳に属さない製品にも「ヨーグルト」の文言が使われている場合があるという。「評価制度があり細かく定義されているチーズやアイスに比べクラフトマンシップが育たないジャンルで伸びしろがある」と捉えている。
ヨーグルトの価値発信においては、ミニマムでも多様性を持ったコミュニティの存在を重視している。向井氏は23年にヨグネットを設立し、ご当地ヨーグルトを中心にワークショップ、百貨店への出展など精力的に取り組んでいる。参加者の中には、生乳の生産背景や地域性などに価値を感じ対価を払う人、冷蔵庫で寝かせて発酵の独特な味わいを最大限楽しむ人もいるという。メーカーにとっては、地元ではあまり売れなかった商品がヨグネットを通じてよく売れたり、1社では対応できなかった課題を総合的に解決できた事例もあるという。
今後は「企業が仕掛けて流行るのではなく、消費者も呼吸できるような相互コミュニティが広がればいい」と展望した。