サントリー「伊右衛門」で「源流調達」の取り組み強化 一番茶から秋冬番までの全茶期を活用した商品設計

飲料カテゴリーのなかでも緑茶飲料はかなりのボリュームを占めるまでになった。以前は競合として快く思っていなかった茶業界だが、今では茶農家も茶畑の作業などではペットボトルのお茶は欠かせない。

一方、メーカーも安定した原料調達先として生産者との関係性を重視するようになっている。

「伊右衛門」を展開するサントリー食品インターナショナルは、「全茶期を活用した商品設計」や「源流調達」の取り組みを通じて生産者との連携を深めている。

河野悦郎サプライチェーン本部原料部部長、三宅克幸SBFジャパンブランド開発事業部課長に原料調達の現状を聞いた。

サントリー食品インターナショナルの河野悦郎サプライチェーン本部原料部部長(右)、三宅克幸SBFジャパンブランド開発事業部課長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
サントリー食品インターナショナルの河野悦郎サプライチェーン本部原料部部長(右)、三宅克幸SBFジャパンブランド開発事業部課長

ーー「一番茶から秋冬番までの全茶期を活用した商品設計をしている」ということですが、具体的には何をしているのでしょうか。

三宅 「伊右衛門」はどんな味わいであるべきなのか、その味わいを実現するためには、どんな品種でいつの茶期の原料茶葉が必要なのかが考え方の基本。一番茶は味の決め手になるものなのでかなりの量を使うが、一番茶だけで味が決まるわけではなく、2番茶以降秋冬番までを使うことを意識している。

また契約農家さんと、茶商さんを通じて茶市場から買う割合も考慮するし、全体のスケジュール感からいうと、常に翌年ないしは翌々年には、どういう味わいがお客様に対してベストなのかの消費者調査を続け、その結果を福寿園さま、弊社の商品開発部と原料部で常に共有し、調達計画はどうあるべきかなどを密な連携を取りながら議論している。
 
ーー静岡はやぶきた一辺倒ですが、鹿児島にはいろんな品種があります。品種にもこだわっていますか。

河野 品種にこだわるという考え方ではなく、伊右衛門で求める味わいを作るために、様々な茶種・茶期を組み合わせて商品の味わいを実現できる茶葉を調達している。

三宅 まさにそこが、弊社の商品開発部と福寿園さまの茶匠との議論になるところだと思う。私はマーケティングの部署だが、理想の味を作りたいという思いをマーケティングと商品開発部で議論し、その味を作るにはどんな品種・茶期であるべきなのかを福寿園さまと弊社の原料部ですり合わせを行い調達につなげている。

河野 味わいのなかに、特定の品種を使わないということになると、契約農家さんは困ってしまうので、生産者の置かれている現状も考え、契約農家で生産した茶葉はしっかり組み込んで味作りをしていこうという議論を毎年重ねている。

三宅 マーケティングの立場からすれば、理想の味作りのため現状を無視することも理論上はあり得ると思うが、実際は茶農家さんとの共存共栄の中で現状無視はあり得ず、このお茶は絶対に使うと決めて調達する部分もある。
 
ーー生産者は、一番茶ではキロ当たり最低2000円は欲しいのではないか。でも2000円の荒茶はドリンク原料としてはかなり高いのでは?

河野 われわれ調達の考え方は“一番茶をいくらで買う”とか“二番茶ならいくらだ”ではなく、農家さんが茶農を安定的に継続していくために必要な経費を参考に、それに応じて価格を決める形にさせていただいている。茶市場で取引をする農家さんの目標価格とは全く別のところでの取り組みとなっている。
 
ーー契約農家さんの話ですね。

河野 2015年から契約の取り組みが始まり、今年で8年目となるが毎年扱い量は増えている。

茶市場は相場取引となり茶価が安定しない上、茶価の低迷も続いていることから、自分の息子には継がせたくないと茶農家さんがおっしゃっているのを聞いたのがきっかけだった。

われわれとの取り組みに茶園全部をシフトした農家さんもいらっしゃるので、農家さんにとっては売りたい相手になっているのかなと思う。概念的には契約による調達ではなく、より源流に遡った調達をするという意味で「源流調達」という言葉を使っている。

三宅 マーケティング事業部のメンバーも昨年、源流調達の農家さんのところに行った。来年は皆さんの作った茶葉でこんな伊右衛門を作ろうと考えているなどの説明をし、農家さんからは直面している課題や、どんな思いでお茶を作っているかという話を直接聞け、すごくいい経験になった。メーカーと生産者が思いを一つにして商品を開発していく、とても意味のある活動だと私は感じている。
 
ーー源流調達で全量を確保することはありえますか。

河野 茶市場から全く買わないということは現時点では考えにくい。ただ、将来的に市場の価格が低迷して放棄茶園が増え必要量の確保が難しくなれば、そういうことも考えざるを得なくなるだろう。茶農家さんの経営が立ち行かなくなれば、伊右衛門の継続も難しくなることから、共存共栄は極めて大きなテーマだと思っている。