高校の課題研究で交わされた冗談から商品化された国産紅茶 その名は「狭紅茶(さこうちゃ)」 キリンビバレッジらが協力

 埼玉県立狭山工業高等学校電子機械科は同校初の取り組みとして11月16日、狭山茶を発酵させるなどしてつくられた国産紅茶「狭紅茶(さこうちゃ)」をヤオコー北入曽店(埼玉県狭山市)の特設売場で数量限定販売した。

 「さやまかおり」と「おくはるか」の2種類のティーバッグ商品を計300個、「おくはるか」30gのリーフ商品100個を用意。17日にも特設売場で発売された。包装は、原材料の茶葉を生産する横田園(埼玉県狭山市)で行われた。

 商品化と販売にはキリンビバレッジ首都圏統括本部とヤオコー北入曽店が協力。
 地元住民から支持が得られやすい地産品の打ち出しで地域密着を図るのが共通の狙いとみられる。キリンビバレッジは、紅茶市場の活性化や流通企業との関係強化も見込む。

 「午後の紅茶」で紅茶飲料市場のトップシェアを握るものの、日本ではリーフを含めた紅茶を日常的に飲まれる生活者が少なく紅茶市場そのものの活性化が課題となっている。

左から原嶌教諭、豊川洋平さん(狭山工業高等学校電子機械科3年生)、鈴木成龍さん(同)、ジャバ・ツルジさん(同)、キリンビバレッジの高井氏、川原世生さん(同) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左から原嶌教諭、豊川洋平さん(狭山工業高等学校電子機械科3年生)、鈴木成龍さん(同)、ジャバ・ツルジさん(同)、キリンビバレッジの高井氏、川原世生さん(同)

 取材に応じたキリンビバレッジの高井美奈首都圏統括本部ブランド推進部部長は「紅茶を飲まれる方が増えてくれば紅茶市場が活性化する。国産紅茶があることを知っていただくのも凄く良いこと。今回の取り組みでヤオコーさまとの関係も深まり、今後、店頭にも『狭紅茶』を並べていただければ、また1つつないだことにもなる」と語る。

 「狭紅茶」のアイデアは2017年、狭山工業高等学校電子機械科の課題研究で交わされた冗談から発案された。
課題研究は、3年生がこれまで学んできたことを活かして興味があるテーマを選び1年かけて製作・研究・発表するものとなる。

 「テーマを設定する際、お茶づくりからスタートした。当校は狭工(さこう)と呼ばれていたことから、工業の“工”に“糸”をつけて“紅”になるといった冗談が交わされ、狭紅茶(さこうちゃ)のアイデアが浮上した」と振り返るのは原嶌茂樹教諭。原嶌教諭は、電子機械科を受け持ち、狭紅茶プロジェクトリーダーを務める。

 アイデアの具現化には、横田園の協力を得て、横田園の茶畑で狭山茶を摘採するところから始める。

 摘採後、紅茶にするには、萎凋・揉捻(茶揉み)・玉解き(ほぐす)・発酵・乾燥の工程を経る。
 このうち発酵は当初、自然発酵の選択肢もあったが、属人化を避け品質の安定化を図るため機械化を試みる。

 「横田園さまから発酵の仕組みを教えていただき、生徒が設計・溶接して発酵機を自作した。家庭用冷蔵庫くらいの大きさで、コンピューター制御によって28℃と湿度100%が保たれる。最初は湿気が漏れ温度が定まらないなどの失敗もあったが、その都度修正し、ここ2年くらいは順調にできるようになっている」と原嶌教諭は説明する。

 発酵機には一度に3キロの茶葉を入れることができ、1時間から1時間半くらいで発酵される。
 このような取り組みがTV番組で取り上げられたことで高井氏が知るところとなる。キリンビバレッジ首都圏統括本部は2022年から協力。

 「高井さんからはまず教わったのは揉捻。紅茶の揉み方は緑茶とは逆に、力を入れて茶葉に傷をつけるようにしなければいけない。そのほか、コンテストに出すためには、抽出を安定させるため茶葉の大きさを揃えるなどのアドバイスをいただいた」という。

 一方、キリンビバレッジ首都圏統括本部としては社員教育も兼ねて協力。

 高井氏は「『午後の紅茶』で使うスリランカ茶葉はほぼ手摘みで収穫される。この手摘みがどれだけ大変かを知ってもらいたく、新入社員には必ず茶摘みに参加させている」と語る。

 今年は、5月と6月に摘採。一番茶を収穫した後に遅れて伸びてくる遅れ芽を摘む。6月7日の茶摘み体験には、生徒と高井氏ほか、埼玉営業部、広域営業部、新入社員ら総勢約50人が参加。約3時間で摘んだ茶葉量は10キロ前後。そこから工程を経て約2キロの紅茶葉がつくられる。

 これまで「Japanese Tea Selection Paris 2022」で審査員奨励賞、イギリス国際ティー・コンペティション「THE LEAFIES2023」で特別賞、「埼玉グローバル賞」の「世界への挑戦」分野を受賞。
 現在、8月に出品した「THE LEAFIES2024」の結果待ちだという。

発酵機 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
発酵機

 狭紅茶プロジェクトは現在、狭山工業高校を中心に、狭山清陵分校・入間わかくさ特別支援学校・所沢商業高校・川越総合高校の五校連携に発展。

 「イベントで出た茶殻を川越総合高校で飼育している埼玉県のブランド鶏『タマシャモ』の飼料に混ぜたところ昨年から鶏を暑さや病気で死なせることなく出荷できるようになったと聞く。まだ実現できてないが、そこから出る鶏糞を入間わかくさ特別支援学校が持つ野菜畑に活用するなどして、人間的なことも含めてSDGsを実現していきたい」と原嶌教諭は力を込める。

 原嶌教諭は「狭紅茶」で南高梅のような広がりを夢見る。

 「南高梅の誕生も高校教諭が携わっていたと聞き、『狭紅茶』が埼玉を代表するブランドになれたら嬉しい」と述べる。

 南高梅は明治35年、和歌山県の上南部村の高田貞楠氏が、梅の苗を譲り受けた中に粒が大きく美しい紅のかかる優良種が一本あるのに着眼し、その木を母樹として育成し増植。その後、南部高等学校教諭の竹中勝太郎氏が5年間調査研究の結果、最も優れたものを南高梅と名付けた。

「午後の紅茶」キッチンカー - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「午後の紅茶」キッチンカー

 特設売場には「午後の紅茶」キッチンカーを併設している。

 キッチンカーは、「午後の紅茶」ではなく、アレンジティーやフードペアリングの体験を通じて紅茶そのものの魅力を伝えるため、サンプリングとせず、あえて販売の形式を採用して6月から首都圏エリア1都3県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)で順次展開している。

 「既に100箇所以上で、季節のメニューを出すなどドリンク・ワッフルのメニューを拡充し、店内に並ぶ『午後の紅茶』の販売促進にもつながるように展開している。流通さまからは集客につながるということでご好評いただき、来年度も継続して行う予定となっている」(高井氏)との手応えを得る。