タイのバンコクから車で約1時間半、GFPTニチレイ(GFN)が構えるチキン加工品の工場は、全長500mにおよぶ直線ラインが圧倒的なスケール感を誇る。安全・安心を徹底的に確保しながら、原料の仕入れから加工、加熱、出荷まで一貫生産を行う。加えて、廃棄ロス削減の観点から、鶏1羽すべての部位を活用したフルインテグレーションを具現化している。
一方、工場には5千400名もの従業員が働く。隣国のカンボジア人が約7割を占めることもあり、大規模な宿舎12棟や専用のマーケットを併設するなど、働きやすい環境づくりにも注力している。
■業務用「究極の唐揚げ」など生産
GFNについて、ニチレイフーズの松尾哲哉取締役専務執行役員は「当社が重点カテゴリーに位置付けるチキン加工品の主力拠点になる。業務用製品を中心に生産し、家庭用は『むねから』を製造する」と話す。
工場の稼働は2010年7月。資本金は約30億バーツ(約120億円)で、日本のニチレイフーズが51%、タイのGFPTが49%を出資する。現状、日本人スタッフはニチレイフーズから経験豊富な8名が常駐。製造・開発などの要所を担っている。
商品供給の概要は平野秀樹副会長兼上級副社長が説明。「原料は現地養鶏大手のGFPTから100%調達。アニマルウェルフェアにも配慮し、自社製造の飼料で育てた良質な鶏を安定的に仕入れている」とした。
また、当初からフルインテグレーションを追求し、鶏1羽の全部位を有意に加工していることが特筆される。もも肉、むね肉の加工品は日本・EUに輸出し、鶏ガラ、内臓、血液はタイ国内で販売。さらに羽は養殖魚の飼料、頭と骨はペットフードの原料となり、砂肝とモミジは中国に輸出する。
日本向けの主なチキン加工品は、業務用は「究極の唐揚げ」「チキンステーキ」「ちょびチキ」など約100品目、家庭用は「むねから」1品目。またEU向けに約100品目を生産し、トータルで約200品目を供給する。
■チキン加工に職能給も
従業員数は5千400名。製造ラインは部外者の侵入を防ぐため、建屋への入場はIDカードで複数のチェックポイントを通過しなければならない。現行は7ラインを有し、最新の第6~7ラインは20年に設置した。二交代制で24時間操業。
チキンの加工は大規模な人海戦術をメインにしているが、近年は骨と肉を仕分ける自動脱骨機、指定した規格に自動でカットする機械などを部分的に導入。コロナ禍での経験を活かし、もしワーカーが離脱しても処理羽数を維持できるように省人化を図っている。なおカット済みチキンの形状や重量など仕上がりの検品は人が厳格に行う。
その後、下味と衣付け、フライ、オーブン、急速凍結、包装、出荷などの工程に移行。第1加熱工場が業務用製品、第2加熱工場(20年稼働)が家庭用製品を担う。工場全体の生産能力は日産144トン。
一方、SDGsを推進する一環で労働環境の改善に注力。専用の住居棟を4千200名が利用するほか、常設マーケット、託児所、運動場などを備えている。また数年前から全社員と仲介業者を通さずに直接雇用契約を結び、同一労働・同一賃金を実現。さらにチキンの加工技術などを対象に職能給を用意し、モチベーションアップも図っている。