日本三大和菓子処・松江の和菓子が中国地方のスーパーで定番化しつつある。松江の和菓子とスーパーの橋渡し役を担うのは、山陰地方の卸企業・えびす本郷。
2023年12月、取材に応じたえびす本郷の渡邉健次社長は「18年前の2005年に“チーム和菓子”を立ち上げ、最初の2、3年は上手くいかなかったものの、以降、軌道に乗り始めてからは毎年2ケタ増で売上げを拡大している」と語る。
同社は現在、松江市に点在する数十社の和菓子企業と取引関係にある。チーム立ち上げ時はゼロからのスタートだった。
「百貨店さまでの和菓子の売上げが低迷傾向にあった頃、和菓子屋さまを一軒一軒訪問して“スーパーさまで売ってみませんか”と提案してみたところ、“百貨店さまで売っているものを売るわけにはいかない”と返されてしまった」とスタート時を振り返る。
そうこうしているうちに、和菓子の販売は低迷の一途を辿る。時を経て、再度提案したところ1つのトライアルを生み、これが大成功へと結実する。
「わかりやすく言うと、1日5万円程度の売上げだった和菓子屋さまの従業員がスーパーさまの店頭に立ち販売したところ1日で10万円、15万円の売上げをつくってしまった。この事実に大変驚かれ、徐々に広がりはじめた」と説明する。
現在は、スーパーに対して、和菓子をスポット商品ではなく、定番商品として取り扱ってもらえるように働きかけ、その途上にあるという。
和菓子のスーパーでの定番化や導入拡大にあたり立ちはだかるのが物流問題。現在、松江市の和菓子屋は、後継者がいて設備投資に積極的なところとそうでないところと二極化していると渡邉社長は指摘する。
後継者がいる和菓子屋の中には、スーパーの物流センターに商品を直送し、そこから各店舗に配荷される仕組みが構築されている。
その一方で、受注から納品までの仕組みづくりが道半ばの和菓子屋が多いという。
「JANコードはだいぶ普及したものの、まだまだ手書きや手作業でやられているところが多く、効率化に向けて当社もサポートしていく」と述べる。
効率化や物流改善に向けた提案の1つが、返品レスの仕組みづくり。
「今までの慣習として、売れ残ったものをメーカーが引き取っていたが、それよりも若干値引きしてでも売り切るようにしていただいたほうが双方にとってメリットがあるはず。慣習を変えていくのは大変なことだが、提案し続けない限り変えることはできない」と意欲をのぞかせる。
同社内では、部署横断のコミュニケーションが奏功して物流費が低減傾向にある。
「2年前の21年から毎月1回、物流会議を開催して営業部門と物流部門の社員が一堂に会し、いかに経費を削減していくかという話し合いを継続している」という。
この効果の一端として、営業は物流面をより念頭に置き流通と商談。
「たとえば特売があると、車の台数を増やす必要が生じたりする。したがって、特売などの情報をできるだけ早く物流部門と共有するほか、物流部門の声を反映させて商談に臨むようになった」との手応えを得る。
同社の事業は、菓子・和菓子・冷菓・自販機・通販・宅配・乳業の7つの柱で構成される。このうち、菓子の物流はNSシステムを導入して最も効率化が図れている。
「菓子部は、あらゆる数値の見える化ができている。たとえばパート1人当たりの出荷数量や1時間あたりの入荷数量など、数値が全て出てくるようになっている。この優れたシステムを上手く運用するには教育が必要」とみている。
物流の仕組みが異なるため、菓子部のシステムをそのまま他部署へ流用することは難しいが、冷菓部と自販機部も基幹システムの導入に向けて動いている。
同社の前期(5月期)売上高は、前々期比0.8減の47億9000万円。今期売上高は3%増を計画。
今期活動としては、21年頃からの取り組んでいる事業承継に引き続き注力していく。
「ただ単に私が次の代にバトンを渡すということに留まらず、2年前に、集中と選択を視野に会社が存続していくために何をすべきかを考えるプロジェクトを立ち上げた。14人ほどが集まり1日かけて話し合いの場を設けたところ、全社的に事を考えられる社員が徐々に増えてきている」と手応えを語る。