クールフライヤー(クールフライヤー、神奈川県横浜市)が、揚げかすなどの固形物を素早く沈下させ、油の酸化や炭化を極限まで抑制する多機能・高機能のフライヤーとして調理現場で注目されている。同機は、油水分離水冷構造を採用し、油槽内に独立した2系統のヒーターを温度調節することで油温と対流を制御する。
固形物の素早い沈下は、油はねを抑制するだけでなく調理場や店内の臭気も通常のフライヤーに比べて格段に抑制されるという。また、酸化・炭化が抑制されることで油の劣化は一般フライヤーに比べて2分の1から3分の1以下に抑えられる。油の継ぎ足しのみで交換不要の店舗もあるようだ。構造面の詳しい解説は昨年4月17日付の弊紙記事を参照されたい。
この度、同フライヤーのハードユーザーである天ぷら店・フライ料理店、ロングユーザーである居酒屋店での利用状況について実地に取材した。
「レア天丼 銀座 三よし」 (東京都中央区)
銀座泰明小学校近くの老舗飲食店が多く並ぶ路地に店舗を構える同店は、カウンター席 8 席の小規模店。和牛や魚などを半生の状態で提供する天ぷらなどを中心とした「レア天丼」を提供。店内は狭いが清潔である上、油臭はない。天ぷら専門店なのかと疑うほどで、余程丁寧に清掃しても、ここまで匂いをなくすことは難しいだろう。
油の交換は1.5か月に1度 別店舗では廃油は出なかった
7 リットルの油槽サイズは、当店の規模では1台で丁度良いが、揚げる素材によって使い分けするため2台のクールフライヤーを導入している。仮に1日50食とした場合、油の交換は 1.5 か月に1回程度。通常のフライヤーでは同じ規模で1週間に1回、場合によっては2~3日で交換する必要があることもある。以前別の大型店舗で4台を運用していた際、減ってきたところで継ぎ足し利用していたため、廃油は出なかった。酸化が非常に低いので油の劣化もなかった。(同店 川俣雄二氏)
店内の油臭について
川俣氏は、前述の別店舗を運用した時、もう1店舗同時に運用したが、そこで他社製フライヤーを利用していた。その店舗で店内の油臭が気になり、換気扇などいくつかの原因を調べたがフライヤーの違いであることが分かったという。
調理スタッフの油臭の付着及び業後の清掃について
通常揚げ物作業をしていると体に匂いが付着して、帰宅後も匂いが落ちないが、同機で調理した場合ほとんど油の匂いがしない。フライヤー周りの油汚れもほとんどないので清掃にかかる負担も少ない。フライヤーの揮発性が非常に低いからだ。業後の油抜きは基本必要ない。(同川俣氏)
筐体の専門店仕様の要望について
天ぷら専門の比較的ハイエンドな店舗では、フライヤーが銅板で覆われているのを目にする。同機器も銅板仕様の機体があれば欲しいと川俣氏は語った。フライヤーの機能には不満はないという。
銅板で機器を覆う場合、金属加工メーカーに依頼すれば別途作成してくれるだろう。店内の構造もまちまちなので都度オプションで製作できるサービス体制があればさらに利用店増加の可能性は高まるだろう。
「Crisp!(くりすぷ)」(東京都江東区)
冷凍品を一切使わないアジフライでクールフライヤーを使用
亀戸駅から至近の昔ながらの路地裏に店舗を構える同店は、フランスの星付レストランや神田の割烹居酒屋などでの修行経験を持つオーナーシェフ石井将太氏が運営。提供するアジフライは冷凍を一切行わずクールフライヤーで調理。他の揚げ物(林SPF豚肉・野菜など)は揚げ鍋を使用している。席数は1階にカウンター8席、2階にテーブル5卓の10席。揚げ物メインのレストラン。
油の酸化や炭化のないフライヤーを探す
もともと油の酸化や炭化に敏感で、使用する油の品質や状態、油の違いによる揚げ物の風味や香りへのこだわりが強く、酸化や炭化の少ない調理法や調理機器を詳しく検証した結果、クールフライヤーに辿り着いたという。油の交換は通常のクールフライヤーの利用者に比べてかなり頻度が高く4営業日に1回ほど。業後の油抜きも行っている。
酸化が低いので揚げ物の風味が落ちてから油を交換するということが起こらない。油きれがすごく良い。油きれが良いということは酸化していないということ。また、油が酸化しないフライヤーは結構あるが、炭化させないフライヤーはほとんどなく、あっても大型のものしかない。油が炭化すると衣が素材の味を邪魔してしまう。(石井氏)
揚げ物の油きれも良い
フライヤーはカウンター越しのすぐ目の前に置いてある。通常のフライヤーでこの距離感で設置することは不可能だろう。実際にアジフライを揚げていただいたが、揚げ物特有のはじけ音は聞こえず、シュワシュワという低い音のみで静かだった。フライヤーの目の前まで顔を近づけても油が飛ぶことはまずなさそうだ。お客様にしてみれば目の前で揚がる様子を見る楽しみも増す。
酸化が少ないと、油の粘度も抑えられるので揚げ物の油のきれが良い。また、酸化が多いと油槽周辺に黄色い塊のようなものが付着してくるがそれも見られない。お客様の目の前に置いても不潔な感じも全くない。(石井氏)
他にないアジフライと好評
アジフライはレア・ミディアム・ウエルダンの3種類がある。フライヤーの温度は165度。レアを試食させていただいた。脂っこさがなく、衣はサクサクして爽やかだが、アジは口の中でするりと溶けてしまう食感。初めて食べる味わいで、高級フレンチのように感じられた。この仕上がりはクールフライヤーの力によるものだと店主は語った。油に炭化物が混じらない(黒くならない)からであろう。
「勝どき GOKiGEN」 (東京都中央区)
勝どきの高層マンションが建ち並ぶ通りの一角にオープンして2年目になる焼き鳥居酒屋。揚げ物メインではないが、揚げたての厚揚げや紅生姜天、ポテトフライが特に人気。近隣の子供連れのファミリーやママ会、パパ会なども多く、夜でも子供客が多い。もともと倉庫だった建物をリノベーションした洒落た作りの洋風居酒屋。オープン時からクールフライヤーを利用しているロングユーザーである。席数はテーブル席中心で 25 席ほど。
油抜きの必要がない
店主の塩谷由佳さんは当店以前から飲食経験が長く、他のフライヤーとの違いを実感しており、他社製に比較して油の切れがいいので油の減り方が少なく、からっと揚がり、油はねも少ないという。
また通常なら閉店後必ずフライヤーの油抜きを行い、機器を清掃しなければならないが、クールフライヤーは油抜きをしなくて済む。パン粉のカスなどが油中に留まったりせず、油に汚れが出ないので、終業後、油槽の底に溜まったカス(固形物)を掬いとり、機器周りの油ダレを拭くだけで済む。油の交換は3週間に1回程度。2年間使用しているが、本体の異常は 1度もないという。
厚揚げの水抜きは不要
揚げ物で1番人気の厚揚げは木綿の豆腐をパックから出してそのままフライヤーに落として揚げる。通常は絶対に豆腐の水抜きが必要。通常のフライヤーで水抜きせずに揚げたら豆腐から出た水分が油に溶け込んで爆発し調理にならない。クールフライヤーは水分が油槽の底に素早く沈んでいくので爆発することがない。揚がり具合も良く、表面の揚がった部分と中の豆腐がしっかりとくっついて隙間がなく、からっと仕上がる。フライヤーの設定温度は170度。(塩谷氏)
厚揚げを実際に揚げていただいたが、パックを開けてそのままフライヤーの中へ直接いれても油はねは全くない。アジフライに比べると、豆腐からの泡立ちが少し大きくなるが、油がはねて飛ぶようなことはなかった。ぶくぶくと小さな音はするが、揚げ物時特有の音はほとんど聞こえなかった。音がしないため、調理スタッフも他の作業をしている間に揚げていることを忘れてしまうことが良くあるので、必ずタイマーを入れるようにしているという。
厚揚げは、からっと黄金色に揚がっており、油のきれがいいので皮の表面はさらさらで油っぽさがなく、カリカリとした上品な味わいだ。どこの店よりも美味しいと学校の先生に勧めるほど子供たちに大好評のポテトフライは、食べ終わった後、下に敷いているペーパーにシミがほとんどないという。酸化が進まず粘性を帯びないので油のきれがいいのだろう。
厚揚げを揚げる様子1(動画を見る)
厚揚げを揚げる様子2(動画を見る)
クールフライヤーの評価と今後の展開
外食産業はコロナ禍を脱して活況を取り戻しつつあるが、悩ましいコスト環境にもさらされている。今年春には再び小麦粉の値上げも想定されている。
カナダ産菜種油の生産体制は安定化に向かっているとされるが、食用油の高止まりは避けられず、中東情勢を巡る物流の不安定化など、さまざまな側面でのコスト上昇が危惧され、その影響が引き続き懸念されている。
調理スタイルの如何に関わらず可能な限りコスト抑制を進めておくべきであろう。
3店舗共通の評価点
・油槽内の酸化・炭化の少なさからくる油の劣化・粘化の抑制
・仕上がり品の油きれの良さ
・水分が油槽下部に素早く沈下する仕組みによる油はねの抑制
・油の交換頻度の抑制(交換せず減ったところで継ぎ足しのみ等もあり)。
・調理場内・店舗内・調理人などへの減臭。清掃が楽。
などの長所が明らかとなった。
3店舗共通の要望
・油槽部外面の素材オプション
についてであり、専門店特有の演出面を向上させるフライヤー周囲の銅板囲いや、清掃時の拭きやすさを向上させるため、外面がステンレス製であればさらに良いなど筐体の素材に関する要望が共通していた。(取材後確認したところ、ステンレス製のカバーに関してはオプションとして販売中とのこと。)
7リットルサイズと小型であることを踏まえ、小規模店舗であれば1台の導入で充分対応可能。さらに、用途を分けて運用する場合、あるいは中規模以上の店舗では複数台導入を検討する店舗が増えつつあるようだ。
18リットル標準サイズの発表
尚、今年の2月13日~16日「厨房設備機器展(HCJ2024)」(東京ビッグサイト、東京都江東区)において、かねてから要望の高かった標準サイズ(18リットル)の発表が予定されている。同機は同社初の自立型標準機となる。
同展示会では、既存の卓上小型機(7リットル)と、空調エネルギーロスを大幅削減する富士工業のダクトレス調理油煙回収ユニットを組み合わせた、循環型厨房システムも併せて展示され、脱炭素・省エネ化を推進するソリューションとして提案される予定だ。
無償レンタルも可能
尚、卓上小型機に関しては、導入を検討したいと考える場合、無償レンタルも対応可能とのこと。クールフライヤー社のHP内にはコストダウンシュミレーションもある。
(問い合わせ先)
クールフライヤー株式会社
https://coolfryer.co.jp/contact/
(取材協力)
・レア天丼 銀座 三よし
東京都中央区銀座 6-3-15
・Crisp!(くりすぷ)
東京都江東区亀戸 6-26-5
・GOKIGEN 勝どき(ゴキゲン)
東京都中央区勝どき 4-10-8 カンナ荘