2024年の食品業界が幕を開けた。わが国の食品業界は2020年のコロナ禍以降、ウクライナ危機も加わり、食料自給率の低さだけでなく、輸入に依存するなかでのサプライチェーンの脆弱さも浮き彫りになった。2022年3月から始まった円安は2年目を迎える。
食品製造業は製造業全体の12%の総産出額で、食品製造業従事者、就業者は約120万人。国の基幹産業の一つであり、食品を配送する食品卸、販売する食品小売業も加えた食品産業は、国民生活にとって最も重要な産業であることは今さら言及するまでもない。だが、この産業は企業規模の大小を問わずおしなべて利益率が低いのが特徴的だ。
食品インフレは、令和4年約2万6千品、昨年は約3万品が価格改定され、今春も4月までに1千600品が値上げを発表している。これまでの食品値上げで食品製造業は諸コスト高の一部を吸収しており、配、販売も増収で着地する企業が増えた。だが今春は製配販ともに、目前には物流の働き方改革への対応も控えている。また、食品のみならず全産業を通じ、設備投資や人材の確保に向けた賃金の上昇など対応すべき課題も解決していく一年になる。
あらゆる物価が上昇し、賃金がなかなか上昇しない中でエンゲル係数も上昇した。2022年からの食品値上げ以降では、消費支出に占める食料品の割合を示すエンゲル係数が急増した。この20年間では2005年の22.9%が最も低かったが、2021年は無職世帯では30%を超え、2人以上世帯28%、勤労世帯26%の順となっている。2022年8月~2023年9月までの1年間の累計では全世帯ベースで29%と過去最高に近い数値となった。
エンゲル係数の上昇とともに消費者の購買行動の変化や買い控えが顕著になる中、食品小売業はPB商品の販売強化だけでなく食品の値下げを断行するケースが散見される。食品小売業では、露出が拡大するディスカウンターや食品売上構成比を年々高めるDgSとの競合がより熾烈になっていくが、デフレへ逆行し価格競争に陥ってはならない。
わが国は主要穀物を輸入に依存している。輸入原料の高騰や為替変動による食品インフレは、値上げの背景を含め消費者に浸透し認められた。現在のプライスを維持しながら、どう付加価値を提供し購買につなげるかを検討すべきであり、デフレに逆行することは許されない。
2023年は大手企業を中心に企業収益が回復したが、実質賃金は低下し消費そのものは伸び悩んだ。消費の伸びは物価上昇率の低下や実質賃金の増加によってもたらされるものであって、値下げによって創出するものではない。
粛々と成長につながる健全な経営を進めながら、社会の変容に対応し新たな商機を見いだすことが必要だ。辰年の今年は、陽の気が動いて万物が振動し、活力旺盛となり大きく成長する年であり、形が調う年、とされている。国民生活にとって重要な食を担う産業だからこそ、今年も食の価値を引き上げる努力を期待したい。