瀬戸内に浮かぶ広島レモンの島を元気にする  ポッカサッポロ社員自ら耕作放棄地を再生  地域活性化とレモン総需要拡大が目的

原料原産地に踏み込んだ活動

ポッカサッポロフード&ビバレッジは、瀬戸内に浮かぶ“レモンの島”と呼ばれる広島県大崎上島の活性化とレモン総需要拡大に向けて、社員が自ら耕作放棄地の再生に取り組むなど原料原産地に踏み込んでいる。

2030年までの中期目標「レモン総需要2倍」の活動の一環。

国産レモンの生産振興に向けて、メーカーが農業に携わることで生産者の抱えている課題について肌身を持って理解するとともに、需要の受け皿となるサステナブルな原料調達も目指す。

食育活動などを通じてその活動を伝えることで企業価値とブランド価値を高めていく狙いもある。

大崎上島は、ミカンをはじめとする柑橘栽培100年の歴史を持っているが、近年は高齢化が進み耕作放棄地が点在するなど持続可能な生産が危ぶまれている。

大崎上島の農業・農家を元気にすることで地域社会を元気にするとの想いのもと、耕作放棄地をレモンの研究園地にするところからポッカサッポロは大崎上島と関わりを持ち始めた。

これから整備する土地に立つ、ポッカサッポロフード&ビバレッジのマーケティング本部産地形成グループの髙寺恒慈氏 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
これから整備する土地に立つ、ポッカサッポロフード&ビバレッジのマーケティング本部産地形成グループの髙寺恒慈氏

ポッカサッポロの社員で、大崎上島の園地管理や運営、農家との連携窓口を務めるのは、マーケティング本部産地形成グループの髙寺恒慈氏。

11月24日、現在整備中の4ヵ所目の耕作放棄地で取材に応じ「雑草の様子を見たところ、10年以上は放棄された場所だと思われる。竹のような植物は上の部分だけを刈ってもまた生えてくるため、掘り起こして根も取り除かなくてはいけない」と述べる。

専門の土木業者に土地の整備を頼むと数十万から数百万円を要するとされる。

この費用負担や整備作業が耕作放棄地の進行や就農の足枷になっていることから、ポッカサッポロが自ら耕作放棄地を整備し、就農希望者に引き渡している。

4ヵ所目の耕作放棄地は、髙寺氏が自ら1年かけて整備した後、新規就農者に引き渡す予定となっている。

ポッカサッポロは2013年2月には広島県とパートナーシップ協定を締結し、16年から大崎上島の研究園地でレモンの育種研究を開始するなど取り組みを進めている。

ポッカサッポロフード&ビバレッジの自社園地 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ポッカサッポロフード&ビバレッジの自社園地

同社は現在、大崎上島に自社園地を2か所、契約園地を1か所保有している。レモンの木は計300本以上、園地面積は合計で約1haとなる。

契約園地も、元来、耕作放棄地だったところをポッカサッポロが整備し、16年からレモンの研究園地として活用してきた圃場となる。

レモンと他の柑橘をかけあわせる品種改良など研究園地としての役目はすでに終えており、今年から契約園地となった。

自社園地のひとつは、ポッカサッポロのメイン圃場で、PR活動や食育イベントの実施、栽培モデルの検証などに活用されている。

広島県が行っている集積園地も近いことから、地元のレモン農家とのコミュニケーションの場にもなっている。

もうひとつの自社園地は、後継者不在の園地を引き受け、生産地の維持の役目を担っている。

左から、ポッカサッポロフード&ビバレッジの髙寺氏、大崎上島町の地域経営課の坂田誠課長、同社のマーケティング本部産地形成グループの土屋淳一グループリーダー - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左から、ポッカサッポロフード&ビバレッジの髙寺氏、大崎上島町の地域経営課の坂田誠課長、同社のマーケティング本部産地形成グループの土屋淳一グループリーダー

産地支援の目的について、マーケティング本部産地形成グループの土屋淳一グループリーダーは「1957年からレモン事業を始めている会社として、いわゆる川上である生産地に目を向けず、ただ商品を作るだけでいいのかという課題がずっとあった。レモンをビジネスの中心に据えようとなったとき、やはり生産地に対する取り組みが脆弱であると改めて課題を認識し、大崎上島でのプロジェクトが始まった」と説明する。

社員自らが大崎上島に向かい、レモン園地で栽培や収穫を手掛け、現地の生産者とのコミュニケーションにも重きを置いている。

土屋氏は「我々自身がちゃんと一次産業に踏み込んで、その課題を知ったうえで商品や地域の価値を高めたい。表面的な部分のみをお客様にPRするのはメーカーの独りよがり。本当に地域に根差した、地域社会に寄り添って連携する活動を行っていきたい」と意欲をのぞかせる。

昨年には広島東洋カープの遠藤淳志選手を招いて収穫体験イベントを実施するなど、大崎上島町のレモンの知名度アップにも貢献している。

「観光地として有名な島ではないが、ポッカサッポロさまがPRしてくださることで、町の知名度が上がっている。レモン農家になるという夢をもって、島に移住してくる方も増えている」と感謝の意を表するのは、大崎上島町の地域経営課の坂田課長。

青いネットに囲まれている集積園地 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
青いネットに囲まれている集積園地

大崎上島町も、レモン産地拡大へ独自の支援活動を展開している。

大崎上島町では、2024年までに町のレモン園地を25haから45haに増やすという目標を掲げていた。現在目標は達成され、大崎上島町にあるレモン園地は50haにまで拡大した。

広島県との取り組みでは、“レモン団地”と呼ばれるレモンの園地を整備している。現在、その総面積は約10haとなっている。“レモン団地”では、研修を終えた複数人の営農者がそれぞれ決められた区画で作業している。

坂田課長は「複数の農家さんが協働で取り組むことで、助け合って成長できる。水を引くパイプラインなどの設備も、一か所に整備して複数人が使うことで、事業費が少なく済みコスト面でもメリットがある」と語る。

レモンと八朔を掛け合わせた交配種 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
レモンと八朔を掛け合わせた交配種

ポッカサッポロは、レモンの可能性を広げるためにレモンそのものの研究も行った。

研究園地でレモンと他の柑橘を掛け合わせた7種類の交配種を、およそ3本ずつ植えて育成。八朔と掛け合わせた新品種が登録の対象に決まった。

髙寺氏は「2016年3月から広島県の農業技術センターと協力して、交配種の研究に取り組んだ。2021年に交配種の評価が終わり、現在では広島県が品種登録の出願をしている」と説明する。

持続的な国産レモンの生産には消費拡大が欠かせない。ポッカサッポロは啓発活動にも注力し、レモンの魅力を発信している。

2023年10月には、これまで社員のみが受けていた「レモン検定」を初めて一般向けに開催。上位合格者のうち5人を、大崎上島のレモン収穫体験に招待した。

食育活動では、飲用だけでなく料理のシーンでもレモンをより活用してもらうため、レシピの紹介なども継続して行っている。レモンの栄養やおいしさを消費者に伝えていくことで、需要拡大につなげていく。

土屋氏は「レモンサワーブームや瀬戸内レモンブランドの定着で、国産レモンの需要は増加し耕作地も増えたが、消費者には、レモンの機能価値や魅力がまだ伝わりきっていない。川上で見つけた知見を活かしたり、付加価値化を促進したりすることでレモンの価値をより高めていきたい。川上から川下までレモンの市場で一気通貫の取り組みを続けていく」と抱負を述べる。

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