23年のスーパーマーケット業界は、コロナ5類移行による人流回復やインバウンド需要の活況、さらには賃上げや株高による消費意欲の高まりが後押しし、各社の売上はおおむね順調に推移した。ただし、足元では人手不足が深刻化し、物流の「2024年問題」も目前に迫る。このほど日本スーパーマーケット協会の岩崎高治会長(ライフコーポレーション社長)が都内で記者会見し、諸課題や24年の展望について語った。
24年は賃上げなど期待
今年の消費環境は「小売業にとってプラス材料が多かった」と回顧。「人流回復、インバウンド需要の拡大、賃金上昇、株高による資産効果などを背景に、スーパーマーケット(SM)だけでなくコンビニ、百貨店などの数字も上向いた」。
SMの販売動向については「企業によって差異はあるが、今年の客数はおおむね前年比100%を超えてきた。また、相次ぐ製品値上げで一品単価が105~106%と上がった半面、買上点数は一部企業を除き前年を数%下回っている。いずれにせよ全般的に決して悪い状況ではない」。
24年の展望は「少なくとも年明け1~2月頃まで現在と同様のトレンドが続くだろう。引き続き人件費・物流費の上昇は見込まれるが、今年まで多かった原材料高に起因する製品値上げは徐々に落ち着いていく」。
「国内の一部企業では好調な業績を背景に、物価上昇を上回る賃上げも期待できるのではないか。何よりも長く続いたデフレから脱却し、インフレという正常なステージに戻りつつある。トップライン(=売上高)については悲観していない」。
また買上点数が回復する見通しについては「一品単価の上昇がペースダウンすることで、やや持ち直すことも期待されるが、長期的な予測は難しい。最終的には各企業の販売施策による」とした。
希望に沿った働き方ができる制度を
一方、SM業界の課題では人手不足への対応を強調。「まずは各社のシステム投資や多能工の育成など、生産性向上に向けた企業努力が重要」としながらも、「外国人在留資格『特定技能』のスーパーマーケット分野の追加認定の実現に向けて活動を続けている。これは全国スーパーマーケット協会などと4団体合同で取り組んでいるもの」。
また「就労制限につながる年収の壁も大きな問題」とし、「厚生労働省から『年収の壁・支援強化パッケージ』が発表されたことは一定の評価をしている。ただし『税と社会保障の抜本的な改革』が必要」と指摘。協会で加盟スーパーのパートタイマー約3万人からアンケートの回答を得たところ、全体の約半数が年収調整しており、うち約8割が住民税(100万円)や所得税(103万円)の壁を意識して年収調整しているという。「長時間・短時間にかかわらず、それぞれの考え方に基づいて働ける制度が必要ではないか」。
2つ目の課題には「2024年問題への対応」を挙げる。3月に発足した「SM物流研究会」には協会加盟の10社(ライフコーポレーション、ヤオコーなど)が参画しているが、「スーパーマーケット協会設立の趣旨(『流通機構の近代化・合理化を促進』『ライフラインとしての食品の安定供給』)にも合致する」とし、その輪が一段と広がっていくことに期待を示した。
また「環境問題」には業界各社が協調して取り組む。食品の廃棄、プラスチック、CO2排出量の削減など会員間で先進的な取り組みを共有していく。