「吟醸を世界の言葉に」をテーマに掲げ、山形の地から吟醸酒の魅力を海外にも積極的に発信し続けている出羽桜酒造。その実力は「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)でチャンピオン・サケを2回獲得するなど、国際的な品評会での豊富な受賞歴が物語る。
現在、出荷全体に占める輸出の構成比は1割超。
仲野益美社長は「日本酒の美味しさとともに山形の魅力を伝えることも大切にしている。今年5月から外国人向けの酒蔵見学ツアーを充実させた。インバウンドにも積極的に対応していく」と話す。
酒蔵同士の連携を大切に
初めての輸出は1997年の欧州向けにさかのぼるが、本格的には99年のアメリカ向けからだ。業界で著名なクリス・ピアス氏が代表を務める輸入代理店、World Sake Imports社(ハワイ州)との出会いを機に、海外の市場開拓が軌道に乗ったという。仲野社長は「日本の酒や文化に理解が深いスタッフに支えられ、当初から輸出事業は右肩上がりで成長できた。飲み比べの楽しさと大切さを知るクリス氏のもと、同じ代理店の取り扱い銘柄と横の連携を取らせていただけたことも大きい。情報共有、勉強会、イベントの共催などに取り組んできた」と振り返る。
現在は北米、アジア、欧州、南米、オセアニア、中東など約35か国・地域に展開。アメリカと同様、他の国でも可能な形で酒蔵同士の連携を図っている。ちなみに直近は山形県内の数蔵とともにインドへの出荷が始まった。
前9月期、アメリカ実績キープ
「出羽桜」ブランドの輸出は、米・麹菌・酵母など山形オリジナル原料にこだわった「出羽燦々」、華やかな香りが楽しめる看板商品「桜花吟醸酒」を2本柱にラインアップする。スパークリングの「AWA SAKE」「とび六」も人気。同社では珍しい辛口の吟醸酒「泉十段」も引き合いが多い。
「当蔵の吟醸酒は冷やして飲んでいただくことが多く、フレッシュなお酒のイメージが強みになっている」(仲野社長)。
23年9月期の清酒輸出実績をみると、主力のアメリカは前年並みをキープ。インフレの影響が懸念されたものの、コロナ禍のうちから飲食店に小瓶での提供やテイクアウトの対応などを啓蒙してきた効果で下支えした。
外国人向け酒蔵 見学ツアーに注力
コロナ5類移行にあわせ、外国人向け酒蔵見学ツアーの受け入れを始めた。1人5千円。英語でガイドできる社員と製造担当の2人1組で対応し、蔵見学からきき酒体験まで充実のコース(約150分)を用意した。アジアや欧米などの来訪者から好評を得ている。
山形県酒造組合の会長も務める仲野社長は「当組合は16年に地理的表示GI『山形』の指定を受けた。一企業の力には限界があるし、組織で山形の産地イメージを上げ、来県のキッカケにつながれば」とした上で、「そこから先の需要をつかめるかは個々の企業努力になると思う。当社はインバウンドにも積極的に対応していく」と展望した。