輸入小麦の政府売渡価格が6期ぶりに引き下げられ、小麦を主原料とするパン粉業界は対応を迫られている。
昨年の秋は政府が麦価を据え置いたが、それ以前に高騰した分を転嫁できていないメーカーも多かった。「今度こそは値上げを」と意気込んでいた業者は「小麦が上がらなかったため説得力に欠け、値上げに応じてもらえなかった」と肩を落とした。再び引き上げられた今年の春は価格転嫁に本腰を入れた企業も多く、実現したところはそれなりに業績も回復した。
そして迎えた今秋は11.1%の引き下げに。以前のように小麦価格に合わせたスライド式であればパン粉の価格も下げなければならないが、ここまで苦心して進めてきた値上げの流れを逆流させたくないのが多くの業界関係者の本音である。
春以降、業績は回復傾向にあるとは言え、これまでのコストアップ分を十分に吸収できていない企業は多い。加えて副原料の値上げ圧力が再び強まっており、小麦の価格も来年春には上昇に転じるとの見方が強い。旭トラストフーズの金田朋宏社長は「価格の下がる方向に市場が向かっていることはないと実感している」と話す。
さらに経営者を悩ませるのが深刻さを増す人材の問題だ。西日本パン粉協同組合の小谷一夫理事長は「地方に行くほど人手不足は深刻な問題となっている」と指摘する。特に地方に点在するメーカーが多いパン粉業界では、その影響も大きい。省人化を図るための設備投資を行うにも適正利益の確保が不可欠である。
昨年、全国パン粉工業協同組合連合会の關全男理事長(当時)は「小麦粉主体ではなく、その他のコストも回収できる価格設定を業界の共通認識として持つべき」との提言を発表した。主原料以外のコストが大きく上昇したことを受けたものだが、主原料の価格が下がった今回、それをどこまで実現できるかが鍵となる。