地球温暖化による減産や世界的な消費拡大でコーヒーの持続的な調達が危ぶまれる中、その危機回避のカギとして、国際的な研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)のジェニファー・バーン・ロングCEOは9月25日、キーコーヒー本社(東京都港区)で講演し品種改良(育種)の必要性を訴えた。
「重要なのはさび病(コーヒーの葉にさびのような斑点が付き落ちてしまう病気)への耐性だけではなく、収穫量も極めて重要。暑い地域など様々な環境に応じて最適な収穫量が得られる品種を探すことが大きな課題」と語る
コーヒーのアラビカ種は、狭い遺伝的多様性により、新しい病気や害虫の影響、気候変動による高温環境に対する耐性の準備ができていないと指摘する。
「植物新品種保護国際同盟(UPOV)にイチゴ品種が6640登録されているのとは対照的に、コーヒーはわずか111種しか登録されていない」と述べる。
中米・カリブ地域を中心にさび病がまん延した2012年、さび病への対応を目的にWCRは設立された。
WCRは消費サイドと生産者や各国の研究プログラムなどの生産サイドとの橋渡し役を担い、生物を遺伝的に改良する育種(いくしゅ)を推進している。
「スピード感を持って育種していくことがコーヒー産業にとって極めて重要な役割を果たす。111種類しかなかった品種が、今ではトライアルを行っている母集団が5000品種に上る」と説明する。
この5000品種から検証を重ねてさらに絞り込まれたものが将来、商業生産される。
グローバルレベルでの遺伝子レベルでの交配は1967年以来初となり「本当にその間、ずっと“眠っていた”」状態にあった。
2015年にはIMLVT (国際品種栽培試験)を開始。これは「同じ品種であっても各地域でどのようにパフォーマンスが変わっていくかの検証を行う」もので、31種類の最良品種が16カ国に分配され6年以上が経つ。
今回の講演会を主催したキーコーヒーは、現地法人トアルコ・ジャヤ社によって530haにもおよぶ「パダマラン農園」を運営。2016年からWCRと協業し、同農園の一画でもIMLVTが行われている。
「(パダマラン農園の)トライアルから得られるデータの質が極めて高く、これを長きにわたりご提供していただき、我々のリサーチにとって大変重要な情報源になっている」とロングCEOは評する。
IMLVTの経過報告では、全世界で改良品種のパフォーマンスが良好であることに加えて、収穫量の高さと温室効果ガスの削減効果が関連していることが判明した。
「IMLVTから様々なデータが得られ、そこからアルゴリズムを導き出し、肥料などの影響を除外して検証したところ、収穫量が多いと温室効果ガスが低減されるという結果が出た。IMLVTにおいて育種がグローバルに展開することで効果的に機能するかが分かった」という。
作物栽培学での収穫量の向上だけではやがて頭打ちになるとし、作物栽培学を取り入れて農業経営を最適化した上で、生産性を上げるために品種改良が必要だという。
「品種改良というイノベーションに、栽培に関する様々な技術革新を組み合わせることで劇的な変革をもたらし、最終的な生産者の方々が長く生産し続けられる環境が整備できる」とみている。
アグロフォレストリー(森林農業)の栽培方法では「農園が果たす役割が極めて大きく、バイオダイバーシティ(生物多様性)にも寄与している」という。
WCRはグローバルコーヒー育種ネットワーク(Innovea Global Coffee Breeding Network)を構築。Innovea参加国の能力を結集させて品種改良のペースを加速させる。
コスタリカ、米国、インド、インドネシア、ケニア、メキシコ、ペルー、ルワンダ、ウガンダの9カ国がネットワークに参加。WCRを構成する 27カ国の170以上の会員企業が資金提供している。
品種改良のペース加速に向けて、ロングCEOはさらなる投資と協力を呼びかける。
「現在、40の国がコーヒーを商業ベースで輸出し、これが今後、持続可能な産業として維持されるためには年間に必要な投資額は5億6700万ドル。現状は低所得の研究機関が資金を負担しており投資額は年間1億1500万ドルと推定され、4億5200万ドルが不足している」と訴える。
投資資金の主に品種改良と生産管理の改善に充てられる。
なお、社員らとともに講演を聴講したキーコーヒーの川股一雄取締役会長は、IMLVTによって「世界中で植物的な成長の計測方法とカップ・クオリティの計測方法が統一されたことが1つ大きな成果としてある」と語る。
IMLVTは当初10年で終了する予定であったが、一部のエリアで延長が決定。
キーコーヒーの「パダマラン農園」もその1つで「香味への影響などを引き続き計測する。我々は品質に一番こだわっており、そういう意味では一番大きな成果だと思っている」と述べる。