23年夏の家庭用チルド麺市場は、記録的な酷暑で「冷し中華」などの需要が拡大したものの、季節商材のためメーカー各社は商品供給の対応に追われた。取材では「旧盆(8月中旬)を過ぎてここまで売れ続けたのは前例がない」との声がある一方、「資材調達や終売時期の調整に苦慮した」。来年以降の教訓としたいところだが、「また猛暑になる保証はない。過度の備えは資材ロスのリスクを高める。どこまで対応するかは悩ましい」と話す。
チルド麺メーカーは、包装資材はもちろんのこと、主原料の一つであるスープ(つゆ・たれ)も外注しているケースが多い。そのため、事前の販売計画をもとにした資材調達が肝となる。とくに期間が限られる季節商材は、売れ時を逃すと資材ロスになりやすいため慎重な見極めが必要だ。例えば、夏物の「冷し中華」は4~5月にかけて店頭への導入が本格化し、7~8月中旬に最盛期を迎え、9月中旬には終売して秋物(=温かいメニュー)に切り替わっていく。
今春夏の序盤、「冷し中華」は気温が上がらず出足が鈍かった。市場データ(食数前年比)を見ると、4月に二ケタ減と苦戦し、前年が高水準の7月も横ばいだった。しかし、8月になっても猛暑日が続いたことから需要は高止まりする。例年であれば出荷が落ち着く旧盆以降もペースが落ちず、「9月上旬の受注数量は前年比5割増。すべてには応えきれない」。メーカーによってはスープなどの資材が底を尽き、夏物商材の終売を例年より早めたケースもある。
一方、今春夏は水やつゆでほぐすだけの「即食タイプ」が存在感を高めた。代表的な商品群は、シマダヤ「流水麺」、東洋水産「つるやか」、日清食品チルド「日清のそのまんま麺」など。コロナ5類移行や光熱費の高騰を背景に、シーズンインの段階で簡便かつ経済的な即食タイプへの注目度が上昇、売場自体が拡大していた。実際、8月上旬までは「理想的な展開。連日の猛暑でも安定供給できている」(メーカー幹部)との手応えだった。ただし、前述のように旧盆以降は想定を上回る残暑で難しい対応を迫られた。
1年後の24年春夏に向け、メーカー各社は“新たな前例(=記録的な酷暑)”にどこまで対応していくかが検討材料になっている。あるメーカーは「夏物商材の需要は気候に左右されやすいが、毎年どうなるかはフタを開けてみないと分からない。23年を基準に資材を積み増しすることはできない」としながらも、「従来の常識にとらわれない備えは必要」と話す。