ハム大手4社の23年3月期決算が5月12日までに出そろった(既報)。畜肉原料の大幅な高騰や電燃料コスト増加などに価格改定効果が追い付かず、各社国内事業など大幅な減益となった。今期は、引き続きコスト状況は高止まりしているものの、直近で3回目となる4月からの価格改定、業務用市場の回復、新商品投入による畜肉市場の活性化などで「倍返しとはいかないまでも、1.5倍返し」(井川伸久日本ハム社長)など、各社大幅増益に転じる。ただ、コスト増は今期も予断を許さない状況で、さらなる価格改定は「可能性は否定しない」(宮下功伊藤ハム米久HD)などの発言も各社首脳から出ている。前期概況と今期業績見込みについて、4社のトップが語った。
【前期概況】国内市場は価格改定後の販売数量減や、食肉は輸入の遅れ、鳥インフルの影響などが重なった。海外市場も中国のゼロコロナ政策などで計画にズレが生じた。これまで国内、海外でリスク分散させてきたが、広範囲で状況が悪化した。そこに対応出来なかったと真摯に受け止め、次に生かす。
【今期方針】取捨選択も視野に強みをしっかり伸ばす。加工事業では、「シャウエッセン」「中華名菜」「石窯工房」の主力3ブランドを強化。ハム・ソーでは、新たな需要開拓を狙った「モーニングサーブ」が好調で引き続き期待したい。また、販促は組織を一新し営業と製造の中間に置いた。積極的な販促と商品開発精度を高めていく。食肉事業も国産鶏肉「桜姫」などブランド価値の最大化を図る。海外事業は既存の牛肉事業の拡大もあるが、北米の加工食品事業をさらに伸ばす。
今期は加工、食肉、海外各事業の増益に、その他事業で順調の新球場効果も見込む。
【価格改定について】22年上期は主力商品で単価は増加したが販売数が減少した。下期から販促も強化し回復基調にある。今期の加工食品は昨秋と今春の価格改定で(外部環境分を)カバーする。(前田文男取締役常務食肉本部長、松本之博常務加工本部長の発言も一部含む)
伊藤ハム米久HD 宮下功社長(同右上)
【前期総括】国内は減益も海外事業のアンズコフーズが大幅増益となった。現中計で掲げた配当性向40%をめどに30~50%で安定的に増配する約束を果たせる見通し。
中間期の公表値より上方修正した。これは22年秋の2回目の価格改定で見込んだ数量減が、想定以上に落ちなかった。また、食肉事業も、輸入牛、輸入鶏のコスト増が減益の要因だが、これらが期末に向けて若干市場が回復したこともある。
【今期方針・見通し】加工食品はコストが引き続き高止まりしているが、23年4月からの価格改定と内部改善で増益を見込む。食肉事業は、国内は改善を見込むが、前期(牛肉価格上昇で)大幅増益のアンズコフーズが減益見込みであるため、トータルでは微減。
また、新規事業として冷凍食品を強化する。これまで米久中心で取り組んできたが、伊藤ハムでも家庭用、業務用ともに強化し、収益基盤強化を図る。大手冷食メーカーのから揚げや炒飯ではなく、それ以外に注力していく。
プリマハム 千葉尚登社長(同左下)
【前期概況】昨年の春と秋の価格改定は、主力の「香薫」を中心に改定が進み、上期の改定以上に下期の改定は通った。それでもコスト増分をすべてカバーできなかった。当期純利益は45億円だが、設備などの特別損失がなければ68億円だったので、中間期時の通期公表値73億円に近い値。
香薫の前期売上高は8%増と好調。家庭用ハム・ソー全体のパック数は3%増なので、値上げ後も支持いただけている。
【今期方針・見通し】消費者参加型キャンペーンをさらに強化する。引き続きディズニーシーの貸し切りイベントなど7つの参加型イベントを実施し、値上げしても仕方ないと思っていただける仕掛けを強化していく。
【価格改定について】4月から各社3回目の価格改定となるが、現在の厳しい環境下では3回で済むとは思っていない。当社は香薫の割合が高いのでその改定ができたことは良かったが、中には業界全体でほとんど上がっていない商品もある。課題は「生活防衛という言葉」。消費者がその意識を持つ前提でマーケティングし、いろいろな仕掛けを継続させていく。(新川裕二専務営業本部長の発言も一部含む)
丸大食品 佐藤勇二社長(同右下)
【前期総括】22年の2回の価格改定の効果はあったが、販売数量減と発表以降もコストは上昇し吸収しきれなかった。特に上期はウインナーが苦戦したので、昨秋や今春の新商品では燻製屋の他社コラボ品などを開発し、第4四半期から回復基調にある。食肉事業は業務用の回復もあり伸長した。
【今期方針・見通し】食肉事業は業務用の回復継続を見込み、営業利益はほぼ倍増を見込む。一方で収益改善のポイントはハム・ソーとそれ以外の加工食品をグループ全体でいかに伸ばせるか。例えば定番のスンドゥブや、(今春の新商品で好評の「酸辣湯(サンラータン)」などの)レトルトスープはもっと伸ばせる。その他ではプロテインスティックなども好評。消費者ニーズは変化し、ウインナーは徳用、ベーコンは切り落としが以前より拡大している。こういったニーズの変化をきちんと見極めながらグループ各社で事業領域の拡大を図っていく。
また、外食・業務ルートはコロナ禍の厳しい時期に取り組んだ開拓効果がこれから出てくるので期待したい。