アサヒビール次期社長に松山一雄氏 世界一わくわくするビール会社へ 消費者視点で「脱・同質化」

4年間にわたりトップを務めたアサヒビール・塩澤賢一社長から、3月16日付でバトンを引き継ぐ松山一雄氏。この間に専務取締役マーケティング本部長として、塩澤氏が掲げる「バリュー経営」推進の陣頭に立ってきた。酒税率改正、飲酒人口の減少などターニングポイントに差し掛かる酒類業界。リーダーとしての手腕に期待がかかる。

在任期間の大半を襲ったコロナ禍にあって、困難なかじ取りを強いられた塩澤社長。22日、後任を託す松山氏とともに会見に臨み「バリュー経営を掲げ、既存の在り方にとらわれず新たな発想で新市場の創造を目指してきた」と振り返った。

業界シェアの実態を不透明にしたビール類の販売実績の開示方法変更には批判がつきまとったが、不毛なシェア争いを脱却するための決断のひとつだったと語る。

スマートドリンキングの提唱、「生ジョッキ缶」の発売、そして「スーパードライ」初の全面刷新と、困難にめげず果敢な挑戦を続けた。「その陣頭指揮を執ったのが松山さん。私を含めほぼ酒類の仕事しかしたことのない社員に、多くの気づきをもたらした」。

塩澤氏が絶大な信頼を寄せる松山氏は、鹿島建設、P&Gを経て前職のサトーホールディングス社長としても辣腕をふるったプロ経営者。アサヒビールをどんな未来に導くのか。

「ひと言でいえば、お客様にとって世界一わくわくするビール会社」。松山氏はそう説明する。

同社に関わる以前、松山氏には一消費者としてビール業界に抱いていたある思いがあった。

「日本のビールは本当にうまい。でも味もパッケージも飲用シーンも似たり寄ったり。市場が縮小しているのにシェア競争ばかりしている。イノベーションが起きない退屈な市場なのではないか。世界に誇れる品質とポテンシャルがあるのに、なんてもったいない業界なんだ」。

その後、18年に同社の一員として迎えられる。「入社してわかったのは、アサヒビールの社員たちは最高の品質とコスト競争力、ボリュームの最大化へ、全力で取り組んでいるということ。ただ残念なことに、お客様のためのイノベーションに向かわず、ゼロサムの同質化競争から脱却できていなかった」。

マーケティング本部長として、ボリュームからバリューへの転換、すなわち「バリュー経営」の推進に腐心。消費者の視点から顧客のわくわく感を追求し、ときには業界の常識にも挑戦してきたと語る。

「酒類は嗜好品であり必需品ではない。でも正しく付き合えば、人生に彩りを添えるよきパートナーになれる」が信条だ。

「お酒は個人的には大好き。でも日本の成人人口のうち、半分くらいはお酒を飲まない。愛するあまり、そこを見失って的外れな提案をすべきではない。お客様に価値を見出していただけるストーリー、ブランド、タッチポイントづくりに取り組みたい」。