鹿児島県は県本土に加え200有余の島々を有し、南北の距離は約600㎞に広がる。豚・肉用牛など畜産を主力とする農業産出額は全国第2位の4千772億円(令和2年実績・鹿児島県農政部)。鹿児島湾や薩摩半島沖、南西諸島域は最深200m以上の水深を有し、東の駿河湾と並ぶ深海魚の漁場である。鹿児島大学は、鹿児島経済を支える農業・水産業の活性化に向け地域一体となった課題解決の中核的な役割を担う。
ヒメアマエビ、キホウボウ、アイアナゴ…。いずれも鹿児島の水深200m以上の海で獲れる深海魚だが、水揚げされず海上投棄される魚種も多い。
低・未利用種を活用した高付加価値の食材開発により漁業・飲食業を活性化できないか。鹿児島大学は2020年、水産仲卸の田中水産、南さつま市とともに「かごしま深海魚研究会」を発足させ課題解決に着手している。
まずは、相対売買による流通システムを構築。漁獲される種類・量のデータ収集とともに、魚種ごとの特性・食味を分析したうえで食材・メニュー開発を実施した。
水産学部の大富潤教授は「『うんまか深海魚』としてブランド化することで、これまでキロ0円だった深海魚が利益を生み出す。ヒメアマエビを使用したせんべい(薩摩煎餅やまとや)のほか、県内50店舗以上の飲食店・スーパーで『うんまか深海魚』料理や食材を提供している。新たな食文化を創り、漁業者のモチベーション向上や後継者維持につなげたい」と意欲を示す。
鹿児島大学が地域に設置する「オープン実証ラボ(フィールド)」。大学の研究成果を試作品やプロトタイプなどで可視化し、地域一体となって社会実装・事業化を目指す場だ。
リュウキュウイノシシ肉の高付加価値化実証は、「徳之島実証フィールド」で展開されたプロジェクトの一つだ。リュウキュウイノシシは徳之島に棲息するイノシシの固有亜種だが、サトウキビなど地域農産物にもたらす被害も深刻だ。農学部の大塚彰教授は「抗疲労成分のバレニン、カルノシンが、豚肉より高濃度に存在することを科学的に証明した。リュウキュウイノシシの価値を高める『ストーリー付け』により消費拡大し、自然生態系の保全と農作物被害防止を両立させたい」と抱負を語る。
「徳之島フィールド」はもともと、人工衛星画像データを用いたサトウキビ生産管理の効率化から実証プロジェクトをスタート。これを起点に、ハーベスタ搭載型リアルタイム位置稼働情報モジュール開発、圃場地形情報収集など、様々な実証プロジェクトに発展していった。
鹿児島大学「南九州・南西諸島域イノベーションセンター」の藤枝繁センター長は、「すでに顕在化した課題を解決するプロセスの中で、地域に眠る新たな潜在的課題『マイクロニーズ』を発掘し、われわれの『知』を広げていく。その成果を、地域拡大を図りながら社会実装につなげたい」と強調した。