中長期的なマーケティングの成功から、昨年まで缶商品が7年連続の成長を果たした「サッポロ生ビール黒ラベル」。そして「ヱビスビール」も、発祥の地・恵比寿にブランド体験拠点がオープンする。RTD(缶チューハイ)やRTS(チューハイの素など)の領域でも、近年特色ある展開を強めるのがサッポロビールだ。昨春から同社を率い、今年からはビール酒造組合の会長代表理事も務める野瀬裕之社長。本紙のインタビューに、新たな年への展望を語った。
酒類の可能性 独自戦略で追求
すでに第8波に入ったコロナ禍は回復の途上にあった飲食業界を直撃し、忘年会シーズンを再び自粛ムードが襲う。この3年近く繰り返されてきた状況は、いつまで続くのか。
「もはやこれが日常だと受け止めねばならない段階だ。『コロナだから』という視点では新しい発想が生まれない。酒類業界は業務用の回復の遅れやビール類市場の苦戦に直面しているが、それを乗り越えて新しいことにチャレンジする発想に切り替え前に進まねばならないと感じた一年だった」。野瀬氏は語る。
食品・酒類業界が値上げに明け暮れた一年でもあった。
「ビール類の値上げは14年ぶりだったが、実施できて少しほっとしている。消費の一時的な減退は起こっても、業界の将来を考えれば必要なことだったと思う」。
ビール類では、20年秋の酒税率改定以降「ビール復権」「新ジャンル不振」の流れが鮮明化した。
「価格差が縮まるとはいえまだ差はあるので(増税になる)新ジャンルはそう悲観しなくてもいいと思っていた。だが新ジャンルは増税後に苦戦し、値段が高いビールのほうが売れ始めた。それを考えても、ずっと続けてきたビール強化の路線は間違っていなかったと思う」
それを強く裏付けるのが、ビール減税より以前からブランドの再強化に取り組んできた「黒ラベル」の躍進だ。
「サッポロビールは、2026年に創業150周年を迎える。改めてわれわれのコアコンピタンスは何かを考えると、『おいしいビールをお届けすること』という答えに行き着く。『黒ラベル』『ヱビス』という2つのブランドの価値を磨き、それらにまつわる様々なストーリーをお伝えすることに努めてきた。そのためのお客様との多面的なタッチポイントを作れたことが、躍進の大きな要因だ」
「ヱビス」も、東京・恵比寿にブリュワリー併設のブランド体験拠点「YEBISU BREWERY TOKYO」を開業の予定。ファンとのタッチポイント作りが大きく前進する。
人口減少に向かう日本社会。飲酒人口も長期的に減少が避けられず、酒類各社では将来を見据えた戦略の転換に迫られている。サッポロビール仙台工場でも、今年いっぱいでビール類の製造を停止。市場の成長が見込めるRTDの製造工場として生まれ変わるが、今後も同地にあるポッカサッポロフード&ビバレッジのカップスープとのハイブリッド工場として、グループ全体で市場変化に対応していく。
そんな酒類市場にも、まだ大きな可能性を見いだす。
「私たちがチャレンジしているのは、価格面だけではない商品のプレミアム化、魅力化を進めること。そのために商品の質を高めることが基本的な路線だ。コロナ禍や酒税率改定も経て、お客様のお酒に対する関わり方は変化した。そこには必ずビジネスチャンスがある」
秋には酒税率改定の第2弾も控える23年。どのような戦略で臨むのか。
「当社では本年いわゆる機能系ビールなどの通年型新商品を出していない。ビール減税に向けて新商品を出すことを戦略の中心に据えるのではなく、いま持っているブランドの個性を磨くというやり方は、競合とは異なる点かもしれない」。そんな独自の立ち位置でも存在感を発揮する。
「大きな方向性を変えずに、しっかり足元を見ながら長期的視点を持って取り組むことが私たちの進むべき道だ。サッポロビールの商品とお客様との関係をしっかり構築し、熱狂的なファンになっていただく。それが結果的にお客様の満足度につながると考える」