地球温暖化の影響でアラビカ種コーヒー豆の持続的な生産が危ぶまれる中、キーコーヒーの川股一雄取締役副社長執行役員は11日、フード・フォラム・つくば秋の例会で講演し、持続可能な生産の方策の1つとしてコーヒー品種開発の必要性を訴える。
コーヒー品種開発は、他の産物と比べて遅れをとっているとし、その要因として国際コーヒー機関(ICO)による生産抑制やアラビカコーヒー伝播の歴史を挙げる。
価格低迷は、国際コーヒー機関(ICO)による価格を下げる圧力が長い間続いたことによるものとした。
「ICOはアメリカ主導で中南米の共産化を防ぐため生産国別に輸出制限した。相場が下がると輸出量をさらに削減し、相場が高騰した場合は輸出量を増やすという国際カルテルを行い、コーヒーとココアの価格は生産価格と見合っておらず、SDGsの観点ではもう少し高い値段で買わなければならない」と説明する。
Columbia Center on Sustainable Investmentの「国別平均コーヒー収入と推定生活所得水準の比較」によると、ブラジルを除いた主要生産国はコーヒーの生産では生計が立たない実態が浮き彫りになる。
「これをサステナブルにしないといけないというのが、国際的な研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)の設立の目的で、コーヒー業界はこの現実に向き合わないといけない」と語る。
アラビカコーヒーがティピカとブルボンの2種で伝播し遺伝的多様性が狭いことも品種開発が進まない理由に挙げる。
ティピカはエチオピアを源流にオランダ、中南米へと広まり、ブルボンはイエメンからレユニオン島を通じてブラジルに辿り着く。
「2ルートとも遺伝子解析が完了し、ほとんど同じところから出ていることが判明した。遺伝的多様性が狭いため、品種改良してもリンゴやブドウのようにバラエティを生み出しにくいという特性がある」と指摘する。
伝播の歴史では、1920年頃にハイブリッドティモール種が発見される。
これは、偶発突然変異で染色体(DNA)の数がアラビカ種と同等になったカネフォラ種(ロブスタ種)と在来のアラビカ種との自然交配によって誕生した異種間交配種で、コロンビアやケニアなどのコーヒー生産国では1995年から2005年にかけてハイブリッドティモール種を活用した新品種が次々と開発される。
これによりハイブリッドティモール種がアラビカ種全体の95%を占めるようになり、遺伝的多様性を失うことによってパナマ病で絶滅の危機に瀕したバナナのような事態が起こりうると警鐘を鳴らす。
このような危機感から、生産国だけではなく消費国を巻き込んだコーヒーの品種開発に取り組むべく2012年に設立されたのが前述のWCR。
WCRでは、2017年からIMLVTを実施。IMLVTとはInternational Multi-Location Variety Trial(国際品種栽培試験)の略で、世界各地の品種の中から気候変動に耐えベストパフォーマンスを発揮する品種を探すプロジェクトを意味する。
現在、試験管培養された同一DNAの品種の栽培が世界23カ国40地点で実施されている。
キーコーヒーは2016年4月にWCRとの協業を開始しインドネシア・トラジャ地域にある直営のパダマラン農園の一角を実験圃場として提供。「昨年から収量調査を実施し、今年、2年目の収穫調査をしてサンプルをWCRに提出した」。
消費国の取り組みでは、新しい商品やサービスなどを開発する段階ではライバル企業と協力し合うも、それらを販売する段階では競合するコーペティション(Co-opetition)の実例として、9月にイタリアのイリカフェ社とラバッツァ社、WCRが提携しコーヒーのゲノム解析に成功した。「このような事例をコーヒー業界全体として取り組んでいかなければならない」と訴える。
持続可能な生産のもう1つの方策としては生豆生産時のCO2排出削減を挙げる。
Climate Neutral Group Sep.2021によると、東アフリカのコーヒーを欧州で輸入して飲んだ場合(7gのレギュラーコーヒーを125㏄で抽出)のコーヒー1杯のカーボンフットプリント(CO2排出量)は60gで、その内訳は生豆生産52%、輸入コスト4%、焙煎4%、販売1%、抽出37%となる。「そのため、約半分を占めるコーヒー生産への取り組みに目を向ける必要がある」と語る。
栽培方法別では、非日陰栽培が日陰栽培の2倍程度CO2を排出し、排出量が最も少ない栽培方法としてアグロフォレストリー(森林栽培)を挙げる。ただ、アグロフォレストリーは生産性が低く「常に環境と生産性がバッティングしてしまう」との課題がある。
ラニーニャ現象対策としては「斜面でコントロールできるかを試験している」。
近年、頻繁に発生しているラニーニャ現象は、インドネシア近海の海上で積乱雲を盛んに発生させて多雨を降らせ、トラジャなどの産地に2シーズンにわたる打撃を与える非常に高リスクな気候変動の事例となる。
「コーヒーの花を咲かせるためには土壌にストレスが必要で、乾季に土壌水分が急激に低下していくのにあわせて花芽のもとがつくられる(花芽分化)。土壌水分が一定程度にまで下がらないと花芽分化は発生しない」と述べる。
直近ではインドネシア・トラジャ地域では集中豪雨に見舞われた。「農園7ヵ所で土砂崩れが起こり、地域全体の水道が一時断水。我々の農園内に貯水槽があり地域住民に給水している」という。
キーコーヒーの今後の取り組みとしては、インドネシアでの新品種の開発や第三者機関との連携を加速させる。
一方、消費者に対しては「品質の良いコーヒーを飲んでご評価していただきたい。安いコーヒーだけでは生産国を支援できない。正当な値段をお支払いいただいて生産国を支援していく必要がある」と呼びかける。