アイルランドが誇るおいしいシーフード。多彩な貝類や甲殻類もそのひとつだ。国土を囲む雄大な大西洋は豊かな海洋環境をもたらし、冷たく澄んだ海を走る潮目が生き物たちに自然の滋養分をたっぷりと与える。
なかでも牡蠣(かき)、ムール貝など貝類の養殖事業は持続的な生産と輸出を担保する大切な産業である。輸出業者は国家的食品サステナビリティプログラム「オリジングリーン」(www.origingreen.ie)の参加メンバーとして、自然環境への負荷を減らすこと、地域社会発展に寄与すること、そしてアイルランドの海面養殖資源を守ることに全力を傾ける。
〈牡蠣〉
現在アイルランドで養殖されている牡蠣は、アイリッシュ・ロックオイスターと在来種のヨーロッパ・ヒラガキの2種類。海水に含まれる豊富なプランクトンと滋養分だけで育つアイリッシュオイスターの生産が、自然環境に与える負荷はほぼゼロ。大西洋の海と澄み切った川が交じり合い自然のミネラルが含まれる汽水の中で育つことで、独特の味わいが生まれる。
同国では年間約1万tを超える生牡蠣を養殖し、世界の小売・外食業界向けに出荷。近年では総輸出量の20%の仕向け先をアジア諸国が占め、今後も順調な成長が見込まれる。生産者らは、高品質で安全なプレミアムオイスターへの高まる需要に応えるため日々努力を重ねている。
〈つぶ貝〉
またアイルランドは、EU海域でも随一の豊かな天然のつぶ貝の宝庫でもある。他国産のものに比べてやや小ぶりで丸い形をしたアイルランド産つぶ貝は、北大西洋の海底に群生する天然海藻類に含まれるミネラルを取り込んだ薄い翡翠色、緑がかった灰色の身色、独特の歯ごたえが特徴だ。
環境保全、資源管理に最大限注力しつつ、つぶ貝生産が商業的成功を収めながら輸出市場、特に日本やアジア諸国の需要に応えることができるよう、国と水産業界が協力しあって安定的な品質向上、輸出振興にあたる。2006年には「つぶ貝資源保全規則」が制定され、商業つぶ貝漁が今後次の世代にわたり持続的なものになるよう、明確な枠組みとさまざまな対策が作られた。
漁業者や加工業者はここ数年、同国産つぶ貝の主要市場に成長した日本市場に大きな期待を寄せる。アイルランドでのつぶ貝漁は決して大規模ではなく、漁船のサイズも小さい。それでもすべての漁師はEUの厳しい持続可能性の基準に則り、商業的水揚げが許されているサイズ基準をはじめ資源保全のためのさまざまなルールを率先して守っている。
〈ラングスティーヌ〉
ラングスティーヌ(ヨーロッパアカザエビ)は俗に手長エビとも呼ばれ、イタリアンやフレンチなどに欠かせない食材。アイルランド産天然ラングスティーヌは、繊細な旨味と甘みがぎっしりと詰まった味、食感を持つ最高級のシーフードとして知られる。
アイルランドでは漁師と加工業者との強いパートナーシップによって、持続的なラングスティーヌ漁が営まれている。最先端の船上加工技術を駆使し漁獲後2時間以内に鮮度と風味をそのままに封じ込めた船凍品には、末端市場からも追跡可能な品質保証ラベルを貼付。安定した品質、食品安全性に対する検証可能な保証が海外市場を含む流通各段階で一貫して提供される。
アイルランドでは漁師と加工業者たちが手を携えて漁業向上プロジェクト(FIP)に参加。両者のパートナーシップが奏功し、アイルランド産ラングスティーヌ製品に対する輸出市場での信頼と需要は近年順調に高まっている。
〈ブラウンクラブ〉
ブラウンクラブ(ヨーロッパイチョウガニ)はアイルランドでは一般的に食用クラブ、コモン・クラブと呼ばれ、甲殻類の中で最も親しまれているカニだ。見た目からは想像できないほどジューシーで旨味たっぷりの身肉が何よりの魅力。毎年7千t以上のブラウンクラブを国際市場に出荷し、年間輸出額は5千500万ユーロにのぼる。
アイルランド沿岸のほぼ全域で伝統的なカゴ漁が行われており、とくに北西部の海域では漁獲したカニを活きたまま加工場へ運ぶ設備を搭載した小型船で水揚げされる。持続的資源確保のため、漁獲できるサイズについての規制がある。漁獲が許されるのは甲羅が最低140mm以上、最大重量は一尾2kgまで、甲羅の長さは200mmまで。それ以下、それ以上のものは海に返すルールだ。
主な漁獲シーズンは身肉が最も詰まって風味が最高潮に達するといわれる、7月から12月にかけて。経験豊かな漁師たちは、目検分と手応えから抱卵率や身入りのよいカニを船上で瞬時に選別し、サイズの小さい若いカニや身の痩せているカニは活きたまま海に戻す。
2017年からは漁業向上プロジェクト=FIPがブラウンクラブ漁にも導入され、ブラウンクラブ漁の持続可能性を高める上で着実な成果を生んでいる。FIPを通してアイリッシュ・ブラウンクラブの生産者たちは、最終製品のパーフォーマンス向上につながる海洋資源の健全性確保と効果的な漁業管理を一貫して行うことができるようになった。
近年ではチルド製品や冷凍製品がアイリッシュ・ブラウンクラブの輸出全体の7割を占めるほか、約3分の1は活きたまま輸出。アイルランドの主要な輸出品目のひとつになっている。