要介護の前段階で、心身の活力が低下した状態を意味するフレイル。
要介護になってしまうと健康な状態に戻すことはできないが、その前段階となるフレイルは“可逆的”と言われ、普段の心がけ・取り組み次第で健康な状態に戻すことができる。
伊藤園は9日、健康フォーラムを開催して専門家を招きフレイル予防のポイントを紹介した。
健康寿命の延伸が社会課題となる中、同社はその社会課題解決にお茶が果たせる役割が大きいことを伝える啓発活動に取り組んでいる。
高齢に伴う筋力・筋肉量の低下(サルコペニア)で身体活動量が低下し食欲が減退、食事量の減少で低栄養や体重減少を引き起こし、さらにサルコペニアを誘発する。
この悪循環を断ち切る方策として食事からアプローチを提唱するのは医薬基盤・健康・栄養研究所と国立健康・栄養研究所に属する南里妃名子氏。
「たんぱく質不足の食生活が続くと高齢期においてフレイルのリスクが増加することが考えられる。たんぱく質と同時に抗酸化物質の摂取がフレイル予防に効果的ではないかということも期待されている」と語る。
抗酸化物質の摂取を提唱するのは、酸化ストレスの蓄積が慢性炎症や生活習慣病とともにサルコペニアを招くことが背景にある。
「生体内の酸化力と抗酸化力のバランスが崩れて、酸化力が抗酸化力を上回り、この状態が続くことで酸化ストレスが蓄積する。酸化ストレスが蓄積すると体内で細胞を損傷する物質が増加する」と説明する。
抗酸化物質を手軽に摂取できる飲料の筆頭に、ポリフェノールの一種であるカテキンを多く含む緑茶を挙げる。
「習慣的な緑茶の摂取が多いほど、緑茶を飲まない群と比較してフレイル該当率が低くなった」と語る。
クロロゲン酸類という抗酸化物質を多く含むコーヒーについては「少なくとも我々が持っているデータではコーヒーとの関連はみられなかった」という。
日本茶の中でも緑茶に抗酸化物質が多く含まれるとされる。
伊藤園中央研究所の衣笠仁所長は「ほうじ茶は焙煎して香りを出したもので、加熱によりカテキンの抗酸化物質が変化したり減少したりするため、緑茶が一番多いのではないかと思う」との見方を示す。
フレイルには、身体的な機能低下を意味する身体的フレイルのほかに、認知機能や精神機能の衰えを示す心理・精神的なフレイル、閉じこもりに代表される社会的フレイルがある。
これらへの包括的な対策として、運動・栄養・社会参加の3つを呼びかけるのは筑波大学人間系の山田実教授。
出勤や外出は運動と社会参加の両方につながることから、外出機会を奪うコロナ禍では運動と社会参加をより意識する必要がありそうだ。
「普段からマラソンやジョギングをしている人はどのような状況にあっても、ある程度運動習慣を持続することができるが、そうではなく、運動しようとは思っていないものの、出勤などで自ずと運動してしまっている人がたくさんいる」との実情がある。
コロナ禍でリモートワークが浸透する中、手軽にできる運動としてはウォーキングを推奨する。
コロナ禍で制限される社会参加についてはネットで補完可能だが「ずっと続くと物足りないとの声もあり完全補完は難しい」とみている。
身体的フレイル対策としては、40~50代の筋力が重要であるとする。
「骨格筋は40歳ごろから明らかな加齢変化がみられることがわかっている。壮年期の対策が高齢期の筋肉の状態を非常に大きく左右する。壮年期にしっかり運動習慣を身につけて筋肉の加齢変化を大きく進行させないことが大切」と呼びかける。
高齢期に入ってからでも対策は可能で「若い頃と同じような回復は難しいが、十分に筋肉増強の効果がトレーニングによって得られることがわかっている」。
加齢によって萎縮しやすい筋は、地球の重力に対して姿勢を保持するために働く腹部・背中・太腿部分の抗重力筋で「このあたりの筋肉強化に重要な運動でイメージしやすいのはスクワット運動」と語る。