悪気がなかったとしても傷つけてしまう言葉など コカ・コーラがLGBTQ⁺のための手引き策定

 コカ・コーラシステムは、偏見や差別のない職場環境を目指し、LGBTQ⁺をサポートするための手引き「LGBTQ⁺アライのためのハンドブック」(以下、ハンドブック)を策定した。

 コカ・コーラ・サスティナビリティ―戦略の注力分野の1つである多様性の尊重の一環。

 多様性の尊重の活動としてLGBTQ⁺ほか、ジェンダー、年齢・世代、障がい者支援の4つを重点課題に取り組んでいる。

 20日発表した日本コカ・コーラのホルヘ・ガルドゥニョ社長は、今回のハンドブックの意義について「世界的にも有数なインクルーシブ(包摂的)なブランドを自負するコカ・コーラとしての使命は、コカ・コーラシステム内の従業員を支援することに留まらない。社会全体が協力し合い地域社会における包摂と平等を向上させるためのインスピレーションを提供することにある」と説明する。

日本コカ・コーラのホルヘ・ガルドゥニョ社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
日本コカ・コーラのホルヘ・ガルドゥニョ社長

 LGBTQ⁺とは、以下の頭文字をとった言葉で性的マイノリティを表す総称の1つ。

 ――Lesbian(レズビアン):性自認が女性で恋愛対象も女性の人
 ――Gay(ゲイ):性自認が男性で恋愛対象も男性の人
 ――Bisexual(バイセクシュアル):恋愛対象が女性にも男性にも向いている人
 ――Transgender(トランスジェンダー):出生時に割り当てられた性とは違う性を生きる人、または生きたいと願う人
 ――Questioning(クエスチョニング):性的指向や性自認を決められない・分からない、またあえて決めない人
 ――Queer(クィア)性的指向や性自認が多数派ではない、性的マイノリティを総称する言葉

 ハンドブックでは、英語で同盟・支援などを意味するアライ「ally」にも触れる。
 アライとは、自分自身が性的マイノリティであるかどうかによらず積極的にLGBTQ⁺を理解し社会や職場をより良いものにしていく人たちのことを指す。

日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン人事本部長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン人事本部長

 日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン人事本部長は、自身がゲイであることを明らかにした上でアライの存在が不可欠だという。

 「私の経験を申し上げると、職場では信じるものなどが異なる様々な人たちと一緒に働くことになる。その中で、安心してその場にいられると感じられるかが大事。インクルーシブな言葉や行動がいかに重要かを従業員に理解してもらうことによってLGBTQ⁺の方が安心安全に働くことができる」と述べる。

 ハンドブックの導入を予定しているパナソニックグループでDEI(多様性・公平性・包摂性)の推進役を務める三島茂樹氏は、社員教育で重視している点としてアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の払拭を挙げる。

 「アンコンシャスバイアスの一例は“男性らしく”“女性らしく”といった言論で、このような言論は一人一人の成長の機会を奪い、個性を発揮できない職場環境の原因になる」と指摘する。

 避けるべき表現についてはハンドブックでも紹介。「悪気がなかったとしても差別的と受け取られたり誰かを傷つけることがある」表現として「結婚しないの?」「彼氏/彼女いないの?」「男は家庭を持ってこそ一人前」などが記されている。

プライドハウス東京の松中権(ごん)代表 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
プライドハウス東京の松中権(ごん)代表

 複数の調査によると、日本のLGBTQ⁺の割合は人口の8~10%程度と推定される。

 コロナ禍の20年5月にLGBTQ⁺1600人強を対象に緊急調査を実施し「大変な状況だと思った」と危機感を持つのは、ハンドブックを監修したプライドハウス東京の松中権(ごん)代表。

 緊急調査によると、1600人強の73.1%が同居生活に困難を感じ、36.4%が自分のセクシャリティーをオープンにできる場が途絶えてしまったと回答。

 「LGBTQ⁺の方の自殺率が高く、LGBTQ⁺でない方の6倍、トランスジェンダーにおいてはそうでない方の10倍という数字もあり、コロナ禍だからこそ安心安全な場所が必要」と訴える。

 現在、安心安全な場所として東京の新宿御苑駅付近で常設のホスピタリティ施設「プライドハウス東京レガシー」を運営している。

 これは、松中代表の呼びかけに応じたコカ・コーラ、パナソニックをはじめとする15社の協賛金によって20年11月に設立されたもので、水曜と木曜を除いた13~19時に誰でも利用でき法律相談やいのちの相談が受けられるようになっている。

 同施設は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で、2010年バンクーバー以降展開された世界のプライドハウス史上初めて大会組織委員会による「公認プログラム」として活用されLGBTQ⁺の情報発信を行った。

 「メディア向けガイドブックも策定した。東京大会は、カミングアウトして参加する選手が最多で、トランスジェンダーの選手が自認する性で参加した初めての大会となった」と振り返る。

パナソニックホールディングスの三島茂樹DEI推進担当執行役員 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
パナソニックホールディングスの三島茂樹DEI推進担当執行役員

 ハンドブックは、日本コカ・コーラのサイトで全内容を公開し、LGBTQ⁺への理解促進を検討するあらゆる企業・団体は無償で活用できるようになっている。

 「我々の経験を踏まえるとシンボルを使うことが重要。シンボルやアクションで示すことがいかに重要であるかを知っていただく一番の手段だと考えている」(日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン人事本部長)と語る。

 “示す”という点では、企業単位でのハンドブックの採用も有効と思われる。

 「トップの意志を発信し続けることが物凄く大事。DEIの必要性を社員に具体的に訴え続け、経営戦略や様々な施策に落とし込み目に見える形で推進していくことが何よりも大事」(パナソニックホールディングスの三島茂樹DEI推進担当執行役員)との見方を示す。