日本茶の海外輸出が好調だ。21年は数量、金額ともに前年実績を上回り、新型コロナウイルス禍に需要が伸びている。急須離れによるリーフ茶需要の減退と茶価低迷から脱却できない国内に対し、海外では健康志向や日本食ブームを背景に、緑茶が飲用だけでなく食用関連でも需要伸長が著しい。急速な円安進行も輸出にとって好材料で、販路拡大を目指す製茶メーカーの鼻息は荒い。
東京都江東区の東京ビッグサイトで、6月下旬に開催された海外向け食品展示会「第6回日本の食品 輸出EXPO」。数々の食品メーカーの中に混じり、日本茶や抹茶のメーカーもブースを構え、海外向け製品のPRやバイヤーらとの商談に臨んだ。「緑茶の輸出はまだ伸びる」。1991年から緑茶の輸出事業を行っている「やまま満寿多園」(静岡県)の増田剛巳社長は言い切る。
財務省の貿易統計によると、21年緑茶輸出量は6千178t、金額ベースは204億1千824万円となり、いずれも前年比17.1%、26.1%増え過去最高を上回った。新型コロナウイルス禍から経済回復が早かった北米を中心に引合いが戻り、日本茶の輸出は今年も勢いを保っている。
緑茶というと、国内では急須やティーバッグで飲むイメージが根強いが、欧米やアジアでは菓子やドリンク、健康補助食品といった幅広い用途で使われ、抹茶を含めた粉末状のニーズが高い。同社はコロナ禍でも「世界的な物流の混乱の影響はあるものの、海外はレストランやテイクアウト向けの需要が戻ってきた」と北米やアジア向けが堅調に推移している。
一方で、欧州の一部や台湾などリーフでの形状が好まれる国・地域もある。嗜好品として飲用される傾向が強い市場に照準を定め、独自色の強い商品を投入する動きも活発だ。今年で創業75年の五十嵐園(東京都)は、日本茶とハーブティーをブレンドした7種類のティーバッグ「七彩華茶」を用意。多彩な色と香り、味わいで1週間の各曜日をイメージしたコンセプトをPRした。昨年発売したカラフルな水色がインスタ映えすると、国内では若い女性を中心にECで人気。湯浅順司社長は「外国でも見た目に興味を持つ人は多いはず」と新たな販路開拓に取り組む。
本目浅吉商店(静岡県)は既存の緑茶製品に加えて、6月に販売を始めた4種類の国産有機紅茶を展示し、四季に応じて異なる味わい深さを訴求した。海外でニーズが旺盛な有機栽培の茶は、「通常よりも高値で仕入れることができる」(本目哲也専務取締役)ため、国内の茶産地を守っていくための「得意先」になる可能性に期待を寄せる。
初出展した上辻園(京都府)は抹茶を中心に、リーフや水出しの煎茶など10アイテムをそろえた。約5年前から台湾やオーストラリアに販路を持っている同社だが、「コロナの影響で思ったように商談や取引ができなかった」(上辻貴信社長)状況から反転攻勢の契機にしたい考え。アンティ(三重県)は昨年末に商品化した「抹茶入り緑茶ティーバッグ」をPR。急須が不要で使える簡便さや、焼酎のお茶割りの原料として使える用途の広さを訴えた。
国内はリーフ茶の単価安に歯止めがかからず、高齢化も相まって茶葉の生産減少が危惧されている。そうした中で政府は輸出重点品目の一つとして茶を選定。25年までに輸出金額を312億円(19年実績は146億円)に引き上げる目標を掲げている。輸出には各国で異なる残留農薬への対応や各種認証取得といった十分な備えが求められるが、生き残りをかけた活路の一つとして世界のマーケットに目を向ける動きは加速しそうだ。